どこで、誰が話している?
アムハラ語は、東アフリカのエチオピアで話されている。現地での名前は አማርኛ(アマルニャ)。母語の話し手は約3,500万人、第二言語として使う人が約2,500万人いて、合わせると約5,900万人になる。エチオピアでいちばん多くの人に話されている言語だ。
エチオピアには80を超える言語があり、1995年の憲法第5条は「すべての言語を等しく認める」としたうえで、アムハラ語を連邦政府の作業言語に定めた。母語の違う人どうしが話すときの共通語としても使われ、アメリカなどに暮らすエチオピア系の人々のあいだでも話されている。
どんな音がする?
アラビア語やヘブライ語と同じセム語派の言語で、喉の奥で息をせき止めてから弾き出す放出音を持つ。ふつうの t とは別に、詰まったような t' があり、文字も ተ と ጠ で書き分ける。
もうひとつの特徴は、子音をのばすかどうかで意味が変わること。日本語の「かた」と「かった」の違いに少し似ていて、alä(アレ)は「彼は言った」、allä(アッレ)は「ある・いる」になる。「ありがとう」の አመሰግናለሁ は、カタカナにすると「アメセグナッレフ」に近い。
どんな文字で書く?
使うのはゲエズ文字。アムハラ語ではフィデルと呼ばれる。古代の南アラビア文字から生まれ、いまのエリトリアやエチオピアの地で育った文字で、4世紀のアクスム王エザナの碑文ではじめて母音まで書き表されるようになった。昔は右から左へ書いていたが、いまは左から右へ書く。
ひとつの字は「子音+母音」をまとめて表す。30あまりの基本の子音字に、それぞれ母音に合わせた7つの形があり、組み合わせを含めると全部で約280字になる。単語の区切りには ፡、文の終わりには ። を使う独自の記号もある。
文法のクセ
セム語派なのに、語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞で、動詞が文の最後に来る。そして単語は、子音の骨組みに母音を流し込んでつくる。s-b-r という3つの子音が「こわす」を表し、ሰበረ(セッベレ)で「彼はこわした」になる。
日本語と大きく違うのは、話し相手の性別で「あなた」が変わること。男性には አንተ(アンテ)、女性には አንቺ(アンチ)。動詞や声かけの言葉も変わり、「がんばれ、大丈夫だよ」は男性に አይዞህ(アイゾフ)、女性に አይዞሽ(アイゾシ)と言い分ける。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
エチオピアの書き言葉は長いあいだ、古いゲエズ語だった。アムハラ語は12世紀末ごろから王の宮廷で話される言葉になり、文字として残るいちばん古い例は、14世紀の王アムダ・セヨン1世(在位1314〜1344年)の勝利をたたえる歌だとされる。
ゲエズ語は日常の話し言葉としては使われなくなったが、いまもエチオピア正教会の典礼の言葉として残っている。文字はそのゲエズ語から受け継がれ、アムハラ語のほかティグリニャ語などもこの文字で書く。
いま、この言語は
話し手が多く、危機度は「安全」。新聞、テレビ、映画、ポップスまで、アムハラ語で幅広くつくられている。ゲエズ文字はUnicodeに収録されていて、スマートフォンでも入力して読める。
一方で、エチオピアは多言語の国でもある。連邦の憲法はすべての言語を等しく認め、各州は自分たちの作業言語を決められる。国をつなぐ共通語としてのアムハラ語と、地域ごとの言語が、並んで使われている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずはフィデルを「子音の行×7つの母音の列」の表として覚えるといい。母音ごとに、右下に小さな線がつく、脚が曲がる、といった形の変わり方には傾向があるので、行ごとに並べて眺めると覚えやすい。
次に、「あなた」が男女で変わることを最初から意識しておきたい。あいさつの ደህና ሁን(男性に)と ደህና ሁኚ(女性に)のように、相手に合わせて語尾を変える形を、ペアで覚えておくと実際の会話で困りにくい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。