どこで、誰が話している?
アラビア語は、西はモロッコから東はイラク、オマーンまで、中東と北アフリカに広がる言語だ。公用語にしている国と地域は約24。英語、フランス語に次いで、公用語にしている国の多い言語である。国際連合の6つの公用語のひとつでもある。
話し手は母語だけで約4億1,100万人、第二言語として使う人を合わせると約4億8,000万人。さらにコーランの言葉として、礼拝で唱えたり学んだりする人は世界じゅうにいる。ただし、ここで数えている「アラビア語」は、実はひとつの話し言葉ではない。それがこの言語のいちばんおもしろいところだ。
どんな音がする?
日本語にない音が多い。とくにのどの奥を使う子音が特徴で、ع(アイン)は喉をぎゅっと締めて出す音、ح(ハー)は冷たい窓に息を吹きかけるような、かすれた「ハ」だ。
もうひとつが強勢子音と呼ばれる、舌の奥を持ち上げて重く響かせる子音。そのひとつ ض(ダード)はほかの言語にほとんどない音とされ、アラビア語そのものが「ダードの言語」と呼ばれることもある。
どんな文字で書く?
文字はアラビア文字、28文字。右から左へ、筆記体のようにつなげて書く。多くの文字は、単語のはじめ・なか・おわり・単独の最大4つの形に姿を変える。ただし ا د ذ ر ز و の6文字は、次の文字とつながらない。
基本的に書くのは子音だけで、短い母音は必要なときに小さな記号で添える。だから新聞の文字を読むには、単語を知っていることが前提になる。文字のもとは、古代のナバテア人が使った文字だといわれる。
文法のクセ
アラビア語の単語は、多くが3つの子音でできた「語根」から生まれる。k-t-b は「書く」の語根で、ここに母音や前後の文字をはめると、kataba(彼は書いた)、kātib(書く人)、kitāb(本)、maktab(事務所・机)、maktaba(図書館・本屋)と、書くことにまつわる言葉が次々にできる。
子音の骨組みさえ見えれば、知らない単語でも意味の見当がつく。反対に、母音を書かない文字で読むときは、どの形なのかを文脈から決める必要がある。語根の仕組みは、同じセム語派のヘブライ語にも共通している。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
アラビア語はアラビア半島で生まれた。328年のナマーラ碑文は、アラビア語を記した初期の文字資料として知られる。7世紀にイスラムが広がると、コーランの言葉として書き言葉が整えられ、帝国の広がりとともに北アフリカやイベリア半島まで届いた。
中世には、学問の言葉として科学・数学・哲学を運んだ。日本語にも英語経由で入っている。アルコールはもとは「目元に塗る細かい粉」を指す al-kuḥl、アルカリは植物の灰 al-qalī、コーヒーは qahwa、コットンは qutn。「代数」を意味する英語 algebra は、9世紀の数学者フワーリズミーの本にある al-jabr(元に戻すこと)から来ている。
いま、この言語は
話し手は多く、危機の心配はない。1973年12月18日、国連総会はアラビア語を公用語に加えた。この日にちなんで、12月18日はアラビア語の日になっている。
ただ、日常はふたつの言葉のあいだで回っている。ニュース、本、演説で使うのは各国共通の正則アラビア語(フスハー)。家や市場で話すのは、国や地域ごとの口語(アーンミーヤ)だ。口語どうしは離れるほど違いが大きく、遠い地域の人とは通じにくいことも多い。このように書き言葉と話し言葉が役割を分けている状態を、言語学では「ダイグロシア」と呼ぶ。1959年に言語学者ファーガソンがこの言葉を広めたとき、代表例に挙げたのがアラビア語だった。なかでもエジプト方言は、20世紀にラジオや映画、テレビが各地に流れたおかげで、いちばん広く通じる口語になっている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
最初に決めたいのは、フスハーから始めるか、話し言葉から始めるか。読み書きやニュースが目的ならフスハー、旅や会話が目的ならエジプト方言か、行きたい国の口語が近道になる。多くの教材はフスハーと口語を組み合わせている。
文字は28文字なので、形の変化に慣れれば数週間で読み上げられるようになる。k-t-b のような語根を意識して単語を覚えると、ひとつの語根から何語も芋づる式に増えていく。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。