どこで、誰が話している?
ブルトン語は、フランスの北西のはし、大西洋に突き出たブルターニュ半島のことばだ。この言語で地方の名前を言うと、ブルターニュは Breizh(ブレイス)になる。話されてきたのはおもに半島の西側で、東側ではフランス語に近いガロ語が使われてきた。
2024年にブルターニュ地域圏が行った調査では、話し手は約10万7,000人(幅をみて約9万3,000〜12万人)。1950年ごろには100万人を超えていたとされるので、70年ほどで10分の1近くまで減ったことになる。フランスの公用語はフランス語だけで、ブルトン語に国の公用語としての地位はない。
どんな音がする?
いちばんの親戚は、海の向こうのコーンウォール語とウェールズ語だ。同じブリトン諸語のなかまで、大陸にありながら「島のケルト語」に分類される。
耳に残るのは、のどの奥でこする c'h の音だ。アポストロフィーをはさんだこの2文字で、ドイツ語の Bach の ch のような音を書く。地域によっては h に近い音になる。もうひとつ、フランス語のように鼻にぬける母音があり、añ・oñ のように ñ をそえて書く。「パン」は bara(バラ)、「ワイン」は gwin(グウィン)。
どんな文字で書く?
文字はラテン文字だ。ch と c'h を別の1文字としてあつかい、ñ や ù などの記号もつかう。いちばん古い記録は8世紀の終わりごろの写本に書きこまれた語で、9世紀からは古ブルトン語の文が残っている。
方言は大きく4つある。レオン・トレゲール・コルヌアイユの3つ(頭文字をとって KLT)と、南東のヴァンヌだ。1941年に両方を1つにまとめた綴りペウルンヴァン(Peurunvan、「すっかり統一された」)がつくられた。Breizh の zh は、KLT の z とヴァンヌの h を1つの字で書くための工夫だ。
文法のクセ
ケルトの言語らしく、単語の頭の音が変わる。「父」は tad なのに、「彼の父」は e dad、「彼女の父」は he zad になる。「犬」は ki だが、「わたしの犬」は ma c'hi だ。前にくる語しだいで、名詞の最初の音がすり替わる。
数は20ずつ数える。40は daou-ugent(2つの20)、60は tri-ugent(3つの20)、80は pevar-ugent(4つの20)。50だけは hanter-kant(半分の100)と言う。18は triwec'h で、もとの意味は「3つの6」だ。
語順にもクセがある。ふつうの文では、動詞を先頭に置かず2番目に置く。上の「その話はよい」も、Mat(よい)を先に出して、動詞 eo(〜である)を2番目に置いている。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ブルトン語は、5〜6世紀ごろにブリテン島の南西部から海を渡った人びとが持ちこんだことばだ。半島がブリタニア(のちのブルターニュ)と呼ばれるようになったのも、この人たちの名前による。
1499年には、ブルトン語・フランス語・ラテン語を並べた辞書『カトリコン』が印刷された。ブルトン語の最初の辞書で、フランス語の最初の辞書でもある。1532年、ブルターニュ公国はフランス王国と合わさる。書き言葉はそれより前の15世紀に、ラテン語からフランス語へと移っていた。
いま、この言語は
ユネスコの区分は「重大な危険」。2024年の調査では、話し手の平均年齢は約58.5歳だった。2018年の約70歳から下がったのは、高い年齢の話し手が減る一方で、若い世代で学ぶ人がわずかに増えたからだ。
支えになっているのは学校だ。1977年にブルトン語だけで授業をするディワン(Diwan)校が生まれ、いまは公立・私立の二言語クラスとあわせて約2万人(2025年、約19,978人)が学んでいる。1999年には地域圏がブルトン語公社(Ofis Publik ar Brezhoneg)をつくり、2008年にはフランス憲法に「地域の言語はフランスの遺産に属する」という一文が加わった。
ことばカード
数字の2・3・4は、数えるものが男性名詞か女性名詞かで形が変わる(2なら daou と div)。ここでは男性名詞の形を並べた。
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずはペウルンヴァンの綴りで書かれた教材を選ぶのが近道だ。ブルトン語公社のサイトには辞書や地名の資料がまとまっている。コーンウォール語やウェールズ語を少し知っていれば、似た単語があちこちで見つかるはずだ。
ブルターニュを旅するなら、駅や役場の二言語の看板を見てみるといい。役場は ti-kêr(町の家)、大学は skol-veur(大きな学校)。夜に fest-noz の張り紙を見つけたら、輪に入れてもらうのがいちばんの授業になる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。