どこで、誰が話している?
チェロキー語は、アメリカの先住民チェロキーのことばだ。いま話し手が多いのはオクラホマ州東部のチェロキー・ネーションで、ほかにノースカロライナ州西部の山あいに暮らすイースタン・バンドにも話し手がいる。自分たちの呼び名は ᏣᎳᎩ(ツァラギ)。
話し手は約1,500〜2,100人とされる。オクラホマの話し手が約1,300人、ノースカロライナが約200人ほど。チェロキー・ネーションでは1991年から英語と並ぶ公用語になっている。
どんな音がする?
まず、p・b・f・v の音がない。唇を使う子音をほとんど持たない、世界でもめずらしい言語である。そのかわりに「ツ」に近い ts の音がよく出てくる。
母音は a・e・i・o・u に、鼻にかかった「ア」のような v を加えた6つ。それぞれに短いものと長いものがある。さらに声の高さの動きで意味を分ける声調もあり、低い・高い・上がる・下がるなど、6通りの調子が区別される。「こんにちは」の osiyo は「オシヨ」でだいたい通じる。
どんな文字で書く?
書くのはチェロキー音節文字。ひとつの字がひとつの音節を表す、日本語のかなと同じしくみで、字の数は85ある。
見た目はおもしろい。アルファベットやギリシャ文字に似た形が多いのに、読み方はまったく別なのだ。たとえば Ꭰ は「ア」、W のような Ꮃ は「ラ」と読む。言語の名前 ᏣᎳᎩ も、Ꮳ(ツァ)・Ꮃ(ラ)・Ꭹ(ギ)の3文字でできている。
文法のクセ
チェロキー語は、ひとつの動詞にたくさんの部品をつなげて文に近い意味を表す抱合的な言語だ。ことばの約75%が動詞でできているともいわれる。
「私たち」の言い方が細かいのも特徴。ふたりか3人以上か、そして聞き手を含むか含まないかで形が変わる。「(あなたと私の)私たち」と「(彼と私の、あなたは入らない)私たち」を、動詞の頭の部品だけで言い分けるのである。過去のことを話すときにも、ふつうの過去形とは別に、人から聞いた話であることを示す語尾がある。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
チェロキー語はイロコイ語族のひとつで、北のイロコイ諸語とは約3,000〜4,000年前に分かれたと考えられている。南の枝に残ったのは、チェロキー語ただひとつだ。
文字の物語の主役は、銀細工職人のセコイア。学校に行ったことがなく、英語も読めなかった彼は、はじめ1語に1字をあてる方法を試したが、字が多すぎると気づいて音節ごとの字に切り替えた。1821年までに86字を完成させ、最初に覚えたのは娘だったという。1825年にはチェロキー・ネーションが正式に採用し、英語なら約2年かかる読み書きを数週間で覚えられると評判になった。1828年には英語と並べて刷った新聞『チェロキー・フェニックス』が創刊されている。
ところが1838年、南東部に住んでいたチェロキーの多くは、いまのオクラホマへ強制的に移された。涙の道と呼ばれるこの移住で、言語はオクラホマとノースカロライナの二つに分かれて残ることになった。
いま、この言語は
ユネスコはオクラホマのチェロキー語を「危険」、ノースカロライナのものを「重大な危険」に分類している。2019年の報道では、50歳未満で流暢に話せる人はわずか5人ほどとされた。
同じ2019年、チェロキーの3つの部族の合同会議が言語について非常事態を宣言した。オクラホマのタレクワとノースカロライナには、授業をすべてチェロキー語で行うイマージョン・スクールがある。2022年には約2,000万ドルをかけたダービン・フィーリング言語センターが開館し、学校や大人の学習プログラム、翻訳チームがひとつの建物に集まった。音節文字は1999年に Unicode に入り、いまはスマートフォンでも打てる。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは音節文字の表を眺めるところから。アルファベットに似た字ほど「知っている読み方」を忘れるのがコツで、Ꭰ(ア)や Ꮃ(ラ)のように、かなを覚えるつもりで1字ずつ音と結びつけていくといい。ᏣᎳᎩ や ᏩᏙ が読めるようになると、一気に楽しくなる。
チェロキー・ネーションの言語部は、音節文字表や数字のポスターなど、学習用の資料を公開している。v の鼻にかかった「ア」と、唇を使わない子音の感覚に慣れるところから始めたい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。