どこで、誰が話している?
チェコ語を話すのは、おもにチェコ共和国に住む人だ。母語話者は約1,070万人(2015年)で、国民の大多数がこの言語を第一言語にしている。国外では、国境を接するスロバキアのほか、アメリカやオーストリアなどの移民先にも話し手がいる。
チェコ共和国の唯一の公用語であり、2004年のEU加盟からはEUの公用語でもある。隣のスロバキア語とはきわめて近く、両国の人はたがいの言語を学ばずに、だいたい聞き取れる。
どんな音がする?
いちばん有名なのは、ř(ジュとルを同時に出すような音)だ。舌を震わせる r と、「ジュ」のような摩擦音を一度に鳴らす。ほかの言語にほとんど見つからない音で、チェコの子どもでも習得に時間がかかるとされる。作曲家ドヴォルザーク(Dvořák)の名前の真ん中に、この文字が入っている。
もうひとつの特徴が、母音のない音節。r や l が母音の代わりに音節の芯になれるので、「Strč prst skrz krk(ストルチュ・プルスト・スクルス・クルク)」という文は、母音の文字が一つもないのに「指を喉に突っ込め」というれっきとした文になる。外国人向けの早口ことばの定番だ。アクセントはつねに最初の音節に来る。
どんな文字で書く?
ラテン文字に記号を足して書く。文字の上の小さな「v」の形がハーチェク(háček)で、č(チュ)・š(シュ)・ž(ジュ)・ř のように、ラテン語にはなかった音を表す。母音の上の線(á・í など)は、音を長く伸ばす印だ。
この記号を使う方式は、15世紀はじめの論文『De orthographia bohemica(ボヘミア語の正書法について)』で説かれた。宗教改革者ヤン・フスの著作とされているが、現存するのは彼の死後に作られた写本で、作者名は書かれていない。それでも、ハーチェクはのちにスロバキア語やクロアチア語、リトアニア語などにも広がった。
文法のクセ
名詞には7つの格がある。日本語の「〜が」「〜の」「〜に」にあたる働きを、単語のおしりを変えて表す。7つめの呼格は、人に呼びかけるときだけの形で、「Filip」に話しかけるなら「Filipe!」になる。名前のほうが変わるのだ。
書きことばと話しことばのずれも大きい。学校や放送で使う標準語と、プラハを中心に日常で話される「一般チェコ語」が、語尾や母音のところで違う。教科書どおりに話すと、少し改まって聞こえることがある。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
中世のボヘミア王国では、チェコ語の文学や聖書翻訳がさかんだった。しかし17世紀以降、ハプスブルク家のもとで行政や教育はドイツ語が中心になり、チェコ語は田舎と家庭のことばに押し込まれていく。
流れを変えたのが、18世紀末から19世紀の民族再生運動だ。ヨゼフ・ドブロフスキーが1809年に文法書を出し、ヨゼフ・ユングマンが1834年から1839年にかけて、約12万語を収めた5巻のチェコ語・ドイツ語辞典を刊行した。足りない語は古い文献や他のスラヴ語から集め、新しく造りもした。ことばをもう一度「書ける言語」に組み立て直した時代である。
いま、この言語は
危機度は「安全」。行政、学校、出版、放送のすべてがこの言語で回っている。母語話者が約1,000万人という規模は、ヨーロッパの中では中くらいだ。
デジタルでも足場はしっかりしている。チェコの大学は、文の構造に注釈をつけた言語データの整備で世界的に知られ、機械翻訳や音声認識の研究に使われてきた。小さすぎず、大きすぎない言語が、自分たちで資源を整えてきた例といえる。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
綴りと音の対応は規則的なので、まずハーチェクつきの文字と長母音の印を覚えると、見た単語をそのまま読めるようになる。ř は最後でいい。先に r と ž を別々に安定させてから、重ねる練習をするのが近道だ。
7つの格は、まず主格と対格、それから「〜で」を表す前置格の3つに絞る。そのあと、スロバキア語が近いことを知っておくと、学んだ分がもう一つの国でも使える。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。