どこで、誰が話している?
デンマーク語はデンマークで話されることばで、母語の話し手は約550万人いる。おもしろいのは、デンマークには「公用語はデンマーク語」と定めた法律がないことだ。それでも行政も教育も報道もデンマーク語で回っていて、事実上の公用語になっている。
国の外にも居場所がある。フェロー諸島ではフェロー語と並ぶ公用語、グリーンランドでは2009年まで公用語のひとつで、いまも少数言語として認められている。ドイツ北部のシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州では、2015年から地域の言語として公式に認められた。系統はインド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派の北ゲルマン語で、スウェーデン語・ノルウェー語とはかなり通じ合う。ただし通じ方には片寄りがあり、ノルウェー人はデンマーク語もスウェーデン語もよくわかるのに、スウェーデン人とデンマーク人どうしはそれほどでもないという。
どんな音がする?
デンマーク語の音は、とにかくやわらかく崩れる。子音が弱まる現象が、となりのスウェーデン語やノルウェー語よりずっと多い。たとえば mad(食べもの)の d は、舌を軽く浮かせただけの「やわらかい d」で、外国人の耳には l のようにも聞こえる。弱い「エ」の母音は、近くの n や l に溶けこんで消えてしまうこともある。綴りには文字が並んでいるのに、声に出すとその一部が飲みこまれる。
母音も多い。音素として数えると約27あり、世界的に見てもかなり多いほうだ。さらにstød(スタッド)という、喉をきゅっと締めてかすれさせる音がある。bønder(農民たち)と bønner(豆)は、このかすれがあるかないかだけで聞き分ける。
デンマーク語を覚える子どもは、ほかの言語の子どもより単語の理解がゆっくり進む、という研究もある。母音や半母音のような音が続いて、単語の切れ目が聞き取りにくいからではないか、と考えられている。
どんな文字で書く?
ラテン文字の26字に æ・ø・å を足した29字。å が正式に加わったのは1948年で、それまでは aa と書いていた。同じ年の綴り改革で、ドイツ語にならって名詞をすべて大文字で書き始める決まりもやめた。
文法のクセ
名詞の性は「共性」と「中性」の2つで、「その」にあたる定冠詞は単語のうしろにくっつく。hus(家)は huset で「その家」になる。北欧のなかまに共通するクセだ。
いちばん有名なのは数の数え方だ。40までは10ずつだが、50から先は20を単位にする。60は tres(3×20)、80は firs(4×20)。50の halvtreds は「3つめの半分」、つまり2.5×20で、70の halvfjerds は3.5×20、90の halvfems は4.5×20だ。21は enogtyve(1と20)と、一の位を先に言う。スウェーデン語とノルウェー語は10ずつ数えるので、ここはデンマーク語だけの景色である。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
もとはバイキング時代に北欧で話された古ノルド語で、その東側の方言からデンマーク語が育った。10世紀、ゴーム老王と息子のハーラル青歯王がユトランド半島のイェリングに建てたルーン石碑には、すでに「デンマーク」の名が刻まれている。ハーラルの石碑はキリスト教への改宗を記していて、「デンマークの洗礼証明書」と呼ばれる。
デンマーク語で書かれた最初の印刷本は1495年。1550年には聖書全体のデンマーク語訳が出て、その綴りが書きことばの手本になった。
いま、この言語は
危機度は「安全」。EUと北欧理事会でも公式の言語として使われ、綴りの基準はデンマーク語審議会(Dansk Sprognævn)が見守っている。法律で決めていなくても、ひとつの国のことばとして揺らぐ気配はない。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
文法はやさしいほうで、動詞は人称で形が変わらない。jeg er(私は〜だ)も du er も han er も er でいい。英語やドイツ語を知っていれば、見覚えのある単語にもよく出会う。
山場は、綴りどおりに読めない発音だ。文字を見て読もうとするより、耳で覚えてから綴りを確かめるほうが近道になる。最初のひとことは、食卓で使える「タック・フォ・マズ」から。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。