どこで、誰が話している?
母語として話す人は約9,500万人。第二言語として使う人を足すと、話し手は約1億3,000万人にのぼる。ドイツ、オーストリア、スイス、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、ベルギーの6か国で公用語のひとつであり、イタリア北部の南チロルでも公的に使われる。
EUの中で、母語話者がいちばん多い言語でもある。英語でもフランス語でもなく、ドイツ語だ。ただし北のハンブルクと南のバイエルン、そしてスイスでは話しことばがかなり違う。標準語(Hochdeutsch)は、その上に乗った共通の書きことばである。
どんな音がする?
英語と同じ祖先から分かれたのに、音がずいぶん固く聞こえる。その原因のひとつが、ずっと昔に起きた「第二次子音推移」と呼ばれる音の変化だ。英語の water がドイツ語では Wasser、apple が Apfel、tongue が Zunge。t が s や ts に、p が pf に変わっている。この変化は3〜5世紀ごろに始まり、8世紀の最初の文献のころには終わっていたとされる。
有名なのが、喉の奥をこする ch の音。Buch(本)の最後は、日本語の「ハ」をもっと奥で出す感じになる。ich(私)は前寄りで「イッヒ」に近い。
どんな文字で書く?
アルファベット26文字に、点のついた ä・ö・ü、そしてß(エスツェット)という独自の文字が加わる。ß は「ss」の音を表す一文字で、Straße(通り)のように長い母音のあとに使う。長く小文字しかなかったが、2017年に大文字の ẞ が正式に加わった。スイスとリヒテンシュタインはこの文字を使わず、ss で書く。
そして、この記事の題にした名詞の大文字書き。das Haus(家)、die Liebe(愛)、die Zeit(時間)。文頭でなくても、固有名詞でなくても、名詞ならすべて大文字で始める。この習慣はバロック期(17世紀ごろ)に定着し、デンマーク語やノルウェー語にも広がったが、ノルウェーは1869年、デンマークは1948年にやめた。ドイツ語ではグリム兄弟をはじめ廃止論が何度も出て、1996年の正書法改革でも議論になったが、結局残った。
文法のクセ
名詞には男性・女性・中性の3つの性があり、「〜が」「〜を」「〜に」「〜の」にあたる4つの格で冠詞と形容詞の形が変わる。作家マーク・トウェインは1880年の随筆で、「少女(das Mädchen)が中性で、カブ(die Rübe)が女性だ」とこぼしている。
語順にもクセがある。ふつうの文では動詞が必ず2番目に来るが、「〜ということ」「〜なので」といった従属節では、動詞が文のいちばん最後に落ちる。さらに「分離動詞」というものがあって、anrufen(電話する)は Ich rufe dich an(君に電話する)のように、頭の an が切り離されて文末へ飛ぶ。文を最後まで聞かないと、何をするのかわからない。
数も逆向きで、21は einundzwanzig、直訳すると「1と20」だ。
この言語でしか言えない言葉
人の失敗をこっそり喜ぶ気持ちのSchadenfreudeも、1740年代の記録が残るドイツ語だ。短い語を積み木のようにつなげて、感情に名前をつけられる。
歴史をひとことで
書きことばとしてのドイツ語を大きく動かしたのは、マルティン・ルターの聖書翻訳だ。新約聖書が1522年、旧約を含む全訳が1534年に出た。ばらばらだった書き方が、広く読まれたこの本を通してそろっていく。
綴りの統一はずっとあとで、1880年にコンラート・ドゥーデンが正書法辞典を出し、1901年の会議で国としての規則がほぼ固まった。「Duden」はいまもドイツ語辞典の代名詞だ。1996年の正書法改革では、daß が dass に変わった。
いま、この言語は
危機度は「安全」。学校・行政・出版・研究がこの言語で回っている。外国語として学ぶ人も多く、ドイツ外務省とゲーテ・インスティトゥートの2020年の調査では、世界で約1,540万人がドイツ語を学んでいた。いちばん多いのは隣国ポーランドの約195万人だ。
いっぽうで、大文字書きのように、ほかの言語がやめたことを今も続けている言語でもある。言語の規則は、理屈だけでは変わらない。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
国際放送 Deutsche Welle(DW)の学習サイト「DW Learn German」は、入門から上級まで無料で、ニュースをゆっくり読む音声もある。ゲーテ・インスティトゥートは東京・大阪・京都で講座と検定試験を開いている。
最初にやるべきは、綴りどおりに読む練習。英語とちがって、書いてあるとおりにほぼ読める。性と格は一気に覚えず、新しい名詞ごとに der・die・das をセットで覚えるのが近道だ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。