どこで、誰が話している?
ゾンカ語は、ヒマラヤ山脈の東の王国ブータンの国語である。生まれたときから話す人は約17万人で、おもに国の西側の8つの県に住んでいる。第二言語として使う人も合わせると、話し手は約64万人になる。インドのカリンポン周辺やシッキムにも、ゾンカ語を話す人びとがいる。
ブータンでは地域ごとに別の言語が話されていて、東部や南部では、ちがう言語を話す人どうしをつなぐ共通語の役目も果たしている。1971年に国語と定められ、学校では必ず学ぶ科目になっている。
どんな音がする?
名前の由来がおもしろい。ゾン(dzong)は「城」、カ(kha)は「ことば」。つまりゾンカ語は「城のことば」という意味だ。ゾンはブータン各地に建つ大きな城で、中には寺も役所もあり、その地域の祈りと政治の中心になってきた。
音の特徴は、高い調子と低い調子の2つの声調があることだ。声の高さだけでなく、最初の子音や母音の響きも、高いか低いかで変わる。いちばんよく耳にするのはあいさつの「クズザンポ・ラ」(こんにちは)。語尾の「ラ」が、やわらかく丁寧な響きをつくっている。
どんな文字で書く?
ゾンカ語はチベット文字で書く。7世紀ごろにインド系の文字をもとに作られたと伝えられる文字で、子音字は30。母音の a は子音字にもともと含まれていて、i・u・e・o は文字の上下につける記号で表す。
単語のあいだに空白は置かない。そのかわり、音節ごとに小さな点(ツェク)を打って区切る。正式な文書には角ばった活字体を使い、ふだんの手紙などにはジョイクと呼ばれる、くずした書き方を使う。
文法のクセ
名詞には「〜の」「〜で」「〜から」「〜へ」などを表す5つの格がある。複数を表す -tshu(ツ)という語尾はあるが、つけなくてもよく、数を強調したいときに使うくらいだ。
動詞は時や様子によって形を変えるが、主語が「わたし」でも「彼ら」でも同じ形のまま。このあたりは日本語と似ている。一方で、相手を敬うための敬語の代名詞 nâ(ナー)があり、目の前の相手にも、その場にいない人にも使う。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ゾンカ語の祖先は、古典チベット語である。ブータンでは古典チベット語を「チューケ」と呼び、僧が何百年もお経を読むのに使ってきた。1960年代のはじめまでは、学校の勉強もこのチューケで行われていた。
その後、学校の言葉はゾンカ語に入れかわり、1971年には国語になった。1991年には、言語学者ジョージ・ファン・ドリームが考えたローマ字表記「ローマ字ゾンカ」が、政府の標準として採用されている。いまのチベット語とは、話し言葉でおよそ半分から8割ほど通じるといわれる。
いま、この言語は
国語として、学校・役所・テレビやラジオで使われている。ことばの整備は、国の機関「ゾンカ語開発委員会」が担ってきた。辞書や文法書をつくり、新しいことばをどう書くかを決めるのも、その仕事だ。チベット文字はコンピューターの文字コードにも収められていて、ゾンカ語用のキーボード配列もある。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは Kuzuzangpo la と Kadrinchey la の2つから。どちらも「ラ」で終わるので、そのリズムごと覚えてしまうといい。数字の ci・nyi・sum…は、チベット語とほぼ同じ音なので、ヒマラヤの言語の入り口にもなる。
文字に進むなら、30の子音字と、音節を区切る点の打ち方から。チベット文字を読めるようになると、ブータンの寺やお城の扉に書かれた文字も、少しずつ音として見えてくる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。