どこで、誰が話している?
英語は、イギリスで生まれていまは世界じゅうで話されている言語だ。Ethnologueによれば、話し手は第二言語を含めて約15億人。そのうち母語として話す人は約3億8,000万人で、残りの約11億人は学んで身につけた人たちである。話し手の4人に3人が「あとから覚えた人」という点で、ほかの大言語とは形が違う。
イギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダなどで主要なことばとして使われるほか、約58の主権国家で公用語のひとつになっている。その多くはかつてのイギリス帝国の領域だが、フィリピンのようにアメリカの統治を経た国もある。
どんな音がする?
日本語の話し手がまずつまずくのが、th の音だ。舌先を上の歯に軽く当てて息を出す。「think」の th は息だけ、「this」の th は声がまじる。世界の言語のなかでは多くない音で、日本語では「サ行」や「ザ行」で代用されてきた。「サンキュー」がその名残である。
強く言う音節と弱く言う音節の差が大きいのも特徴だ。弱いところの母音はあいまいな「ア」に近い音にしぼむので、同じ a の文字でも、about の a と cat の a はまったく別の音になる。
どんな文字で書く?
ラテン文字26字で書く。記号のつかない、いちばん素朴なラテン文字に見えるが、綴りと発音のずれは世界でも指折りだ。through・though・tough・cough は、同じ「ough」を4通りに読む。
かつては文字ももう少し多かった。古英語では、th の音を þ(ソーン)という文字で書き、「the」は「þe」だった。活字の印刷が広まると、大陸から来た活字セットに þ がなかったため、形の似た y で代用された。看板の「Ye Olde」の ye は、じつは「the」と読むのが本来だ。
文法のクセ
英語は、名詞の性と格の語尾をほとんど手放した言語だ。古英語には男性・女性・中性があり、名詞は格によって形を変えた。いまその役目をしているのは語順である。「Dog bites man」と「Man bites dog」は、並べ方だけで意味が逆になる。日本語なら「が」と「を」で決まるところを、英語は位置で決める。
相手を呼ぶことばも、ひとつにまとまった。かつては親しい相手への thou と、複数や改まった相手への you を使い分けていたが、thou は日常から消え、いまは一人にも大勢にも you を使う。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
5世紀ごろ、大陸から渡ったゲルマン系の人びとのことばが、英語のはじまりである。1066年のノルマン・コンクエストのあと、支配層はフランス語を話し、英語には大量のフランス語が流れこんだ。
そして1400年から1700年ごろにかけて、長い母音の発音がそろって移り変わる大母音推移が起きた。ちょうどその最中の1476年、ウィリアム・キャクストンがイングランドに印刷機を持ちこみ、綴りが活字で固まりはじめる。音は動きつづけ、文字は止まった。いまの綴りのずれの多くは、このとき生まれた。1755年にはサミュエル・ジョンソンが約4万2,000語を収めた辞書を出し、綴りの手本として長く使われた。
いま、この言語は
危機度は「安全」。国際会議、航空、学術論文、インターネットの共通語として使われ、世界でもっとも多く学ばれている言語のひとつだ。
その一方で、英語は一つではなくなっている。インド、シンガポール、ナイジェリアなど、第二言語として使う国々でそれぞれの語彙や言い回しが育ち、研究者は「World Englishes(複数形の英語たち)」と呼ぶ。母語話者より学び手が多い言語は、持ち主がだれか、という問いも抱えている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
綴りを「読み方の規則」として覚えようとすると、例外の多さに疲れてしまう。単語は音といっしょに覚えるのがいい。歴史を知っておくと、knight の k や night の gh が、かつては発音されていた音の名残だとわかり、例外が少し親しくなる。
日本語の話し手には、th と、強弱のリズムの二つが近道だ。強く言う音節をはっきり、それ以外を軽く流すだけで、通じやすさはぐっと上がる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。