どこで、誰が話している?
フィンランド語を話すのは、おもにフィンランドに住む人だ。国内の母語話者は約475万人(2023年)で、国民の9割以上がこの言語を第一言語にしている。国外では隣のスウェーデンに約20万〜25万人の話し手がいる。
フィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語の2つ。スウェーデンでは2000年から、フィンランド語が国の少数言語のひとつとして正式に認められている。1995年のEU加盟以来、EUの公用語でもある。
どんな音がする?
母音が多い。a・e・i・o・u に加えて y・ä・ö があり、全部で8種類。しかもそれぞれに「短い/長い」の区別があって、長さが違うと意味も変わる。tuli(火)/tuuli(風)/tulli(税関)は、日本語話者にはどれも「トゥリ」に聞こえかねないが、フィンランド人には別の単語だ。
アクセントは、どんなに長い単語でも必ず最初の音節に来る。首都の「Helsinki」も、頭の「ヘル」を強く言う。全体として、母音がころころ続く、跳ねるような響きになる。
どんな文字で書く?
使う文字はアルファベットだが、ä と ö は a や o の飾りではなく、別の一文字として扱われる。辞書でもアルファベットの最後、z のうしろに並ぶ。
ありがたいのは、綴りと音がほぼ一対一で対応していること。書いてあるとおりに読めば、だいたい通じる。英語のような「読み方を丸暗記する綴り」がほとんどない。
文法のクセ
いちばん有名なのが15ある格だ。日本語の「〜が」「〜を」「〜に」にあたる働きを、単語のおしりを変えて表す。talo(家)なら、talossa(家の中で)、talosta(家から)、taloon(家の中へ)といった具合。前置詞をあまり使わず、語尾で場所や方向を言い分ける。
いっぽうで、無いものも多い。文法上の性がないので、「彼」も「彼女」も同じ hän(ハン)ひとつ。冠詞(a や the にあたるもの)もない。未来形すらなく、未来のことは現在形と文脈で言う。「格が15」と聞くと難しそうだが、覚えなくていいものも同じくらい多い。
もうひとつのクセが子音交替。katu(通り)が kadulla(通りで)になるように、語尾がつくと語幹の p・t・k が変わる。慣れるまでは、同じ単語だと気づきにくい。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
書きことばの出発点は16世紀。聖職者のミカエル・アグリコラが、1543年に入門書『Abckiria』を、1548年に新約聖書のフィンランド語訳を出した。彼はいまも「書きことばの父」と呼ばれる。
次の節目が1835年。医師で採集家のエリアス・リョンロートが、各地の口承詩をまとめた叙事詩『カレワラ』を刊行する。これがフィンランド人としての自覚を強く後押しした。そして1863年、当時この地を統治していたロシア皇帝の勅令により、フィンランド語はスウェーデン語と並ぶ公的な言語の地位を得た。長いあいだ「役所の言語」ではなかったことばが、そこでようやく表に出た。
いま、この言語は
危機度は「安全」。学校も行政も出版も、この言語で回っている。ウラル語族という、周りのヨーロッパの言語とは系統の違う一族に属しているが、孤立して弱っているわけではない。
むしろ課題は別のところにある。話し手が約550万人という規模は、機械翻訳や音声認識をつくる会社にとっては小さな市場だ。だからフィンランドの大学や公的機関は、自国語の言語資源を自分たちで整える取り組みを続けている。小さい言語がデジタルの世界で生き残るには、待っているだけでは足りない、という判断である。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
公共放送 Yle が「やさしいフィンランド語」で毎日出しているニュース Yle Uutiset selkosuomeksi(selkouutiset)は、読み・聴きの両方で使える。ゆっくり読まれるので、初級のうちから耳を慣らせる。
最初にやるべきは、綴りどおりに読む練習と、ä・ö・y の3つの音。ここを押さえると、長い単語も分解して読めるようになる。15の格は、まず場所を表す6つから覚えるのが定番だ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。