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ことばの図鑑 — フランス・アフリカ・カナダ
Français

フランス語——書いても読まない文字たち

水は eau と書いて「オ」。鳥たちは oiseaux と書いて「ワゾー」。読まない文字は、約900年前の発音がそのまま残った跡だ。

2026-10-04 / 言語と物語の図鑑 編集部

どこで
フランス・アフリカ・カナダ
話し手
約3億2,000万人
系統
ロマンス語派
危機度
安全

どこで、誰が話している?

フランス語の話し手は、世界で約3億2,000万人(フランコフォニー国際機関・2022年)。英語、中国語、ヒンディー語、スペイン語に次いで、世界で5番目に多い。ただし母語として話す人は約7,400万人で、大半は第二言語として使っている。

フランスのほか、ベルギー、スイス、カナダ、そしてアフリカの多くの国で使われ、公用語にしている国は20を超える。意外なのは分布だ。話し手の約62%はアフリカに住んでいる。「フランスのことば」というより、いまは「アフリカでいちばん話し手が増えていることば」のひとつである。

どんな音がする?

特徴は3つ。まず鼻母音。息を鼻に抜きながら出す母音が最大4つあり、「アン」「オン」と書きたくなるが、最後の「ン」で舌をつけない。次にのどの奥で出す r。舌先を巻かず、うがいに近い場所でこする音だ。

そして強く読む場所は、いつも語のおしりの音節。h は書いてあっても発音しないので、hôtel は「オテル」になる。全体に、切れ目なくなめらかにつながって聞こえるのは、このあと出てくる「リエゾン」のせいでもある。

どんな文字で書く?

ラテン文字の26字に、é や ê などの記号つきの字を足して書く。問題はここからで、フランス語は書いてあるのに読まない文字がとても多い。語末の子音は、たいてい黙っている。

eau(水)は3文字で「オ」。oiseaux(鳥たち)は7文字で「ワゾー」。temps(時間)は「タン」、doigt(指)は「ドワ」。動詞も同じで、parle(彼は話す)と parlent(彼らは話す)は、綴りが違うのに発音はまったく同じだ。

理由は、綴りが1100〜1200年ごろの発音をもとにしていて、その後に発音だけが大きく変わったから。さらにあとの時代、語源のラテン語に合わせて文字を足した単語もある。temps は古くは tans、vingt(20)は vint と書いていた。読まない文字は、いわば昔の発音と語源の化石である。ê の屋根も同じで、forêt(森)のように、かつてそこにあった s が消えた印になっていることが多い。

Les oiseaux「レゾワゾー」。鳥たち。読まない文字と、つながって初めて読む文字がまざっている

文法のクセ

黙っている語末の子音は、次の単語が母音で始まると急に目を覚ます。これがリエゾンだ。deux(2)は単独なら「ドゥ」だが、deux ans(2年)は「ドゥザン」。読まないはずの x が、z の音で出てくる。

名詞にはすべて男性・女性の区別があり、形容詞もそれに合わせて形を変える。否定は動詞を ne と pas ではさむ。Je ne sais pas(私は知らない)のように、2語でひとつの「〜ない」になる。

数え方にもクセがある。フランスでは70を soixante-dix(60と10)、80を quatre-vingts(4つの20)、90を quatre-vingt-dix(4つの20と10)と言う。20をひとまとまりにする数え方の名残だ。ベルギーやスイスでは、70を septante、90を nonante と、すっきり言う。

この言語でしか言えない言葉

Dépaysement
デペイズマン
意味いつもの土地(pays)を離れたときの、勝手のわからない感じ。心細さの意味にも、旅に出て日常から切り離される心地よさの意味にも使う。「気分転換」と「異郷のとまどい」が一語に入っている。
Flâner
フラネ
意味目的を決めず、眺めることを楽しみながら、あてもなく歩く。辞書(ラルース)には「のんびり時間をつぶす」の意味も並ぶ。急がないこと自体が中身の動詞だ。

歴史をひとことで

もとは、ローマ帝国が運んできたラテン語の話しことばだ。それが土地ごとに変わっていき、842年の「ストラスブールの誓い」で初めて文字に残る。王家の兄弟ふたりが同盟を誓ったとき、相手の兵士にもわかるよう、ラテン語ではなく土地のことばで誓った。これが現存する最古のフランス語の文章とされる。

1539年には国王フランソワ1世が「ヴィレル=コトレの勅令」で、裁判や公文書をラテン語ではなくフランス語で書くよう命じた。1635年には宰相リシュリューがアカデミー・フランセーズを作る。会員は40人で、「不滅の人びと」と呼ばれる。任務は辞書づくりで、初版は1694年。第9版は1992年に第1巻が出て、完結したのは2024年だ。

いま、この言語は

危機度は「安全」。話し手は2018年からの4年間で約2,100万人増えた。外国語として学ぶ人は約5,100万人で、その7割近くがアフリカにいる。伸びているのはヨーロッパの外だ。

いっぽうで、立場が変わりつつある国もある。西アフリカのニジェールは2025年、フランス語を公用語から外した。フランス語の重心は、フランスからアフリカへ移りながら、その中身も少しずつ変わっている。

ことばカード

こんにちは
Bonjour
ボンジュール
ありがとう
Merci
メルシ
さようなら
Au revoir
オ・ルヴォワール
はい
Oui
ウィ
いいえ
Non
ノン
フランス
France
フランス
1un2deux3trois4quatre5cinq

もし学ぶなら

おすすめの入り口

綴りは読まない文字だらけだが、でたらめではない。「eau は オ」「語末の子音はだいたい読まない」といった決まりを覚えれば、綴りから音はかなり正確に出せる。難しいのは逆向き、音から綴りを書くほうだ。

だから最初は、文字と音声をかならずセットで。国際放送 RFI の「Français facile」は、やさしいフランス語のニュースを音声と文章の両方で出している。鼻母音と r は、耳で覚えるのが近道だ。最初のひとことは「メルシ」でいい。