どこで、誰が話している?
グアラニー語の中心はパラグアイだ。母語話者は世界で約650万人(2020年)。パラグアイではスペイン語と並ぶ公用語で、1992年の憲法がそう定めた。南米の先住民言語で、ここまでの地位を得たのはこの言語だけである。
おもしろいのは話し手の中身だ。国の統計機関(INE)の2024年調査では、家庭でグアラニー語とスペイン語の両方を使う人が約38.7%、グアラニー語を主に使う人が約30%、スペイン語が主の人が約28.5%。つまり7割近くの家庭に、グアラニー語が日常語として入っている。先住民のことばでありながら、先住民でない人が大勢話す——南米でこの形になっているのは、この言語くらいだ。ボリビアとアルゼンチンのコリエンテス州でも公用語で、メルコスール(南米南部共同市場)の公用語のひとつでもある。
どんな音がする?
鼻にかかった音が多い。ã・ẽ・ĩ・õ・ũ・ỹ という鼻母音があり、しかも鼻の響きは一文字で止まらず、語のなかを前後に広がっていく。「鼻音調和」と呼ばれるこの性質のせいで、同じ語尾が鼻の有無で形を変える。
もうひとつの特徴が、アポストロフィで書く音。puso(プソ)と呼ばれる声門閉鎖音で、日本語の「あっ」の、息が一瞬止まるところに近い。あいさつの Mba'éichapa(ンバエイチャパ、元気?)を言うとき、é と i のあいだで喉が一度閉じる。音節は基本的に「子音+母音」か母音だけなので、慣れると読みやすい。
どんな文字で書く?
ラテン文字を使うが、この言語専用に整えられたachegety(アチェゲティ)という33文字のアルファベットがある。名前は最初の3文字 a・che・ge に「集まり」を意味する ty をつけたもの。つまり「文字の集まり」という、そのままの名だ。
ティルダのついた鼻母音も、アポストロフィの puso も、飾りではなくそれぞれ独立した一文字として数える。だから辞書の並び順にもちゃんと席がある。
文法のクセ
いちばん驚くのが、名詞に時制がつくことだ。日本語でも英語でも、時制は動詞の仕事である。ところがこの言語では、名詞のおしりに -kue をつけると「かつての〜」、-rã をつけると「これから〜になる」になる。che rembireko(私の妻)に -kue がつけば「元妻」、-rã がつけば「これから妻になる人」。家も、家kue なら廃屋、家rã ならこれから建つ家、という具合に、ものの時間が語尾で動く。
いっぽう、文法上の性はない。動詞は語根に接頭辞・接尾辞をどんどんつなげていく膠着的なつくりで、語尾には「誰から聞いた話か」「どのくらい確かか」を添える印も並ぶ。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
書きことばになったのは17世紀、イエズス会の布教のなかでだった。宣教師アントニオ・ルイス・デ・モントーヤが1640年に文法書『Arte de la lengua guaraní』をまとめ、これが以後の研究の土台になる。
転機は1932年から1935年のチャコ戦争だ。ボリビアと戦ったパラグアイ軍は、兵士の多くが話せるグアラニー語を無線の言語として使った。相手に中身が読めない、というだけの理由で、それまで軽んじられていた家のことばが前線の共通語になった。国のことばとしての誇りが、ここで一段強くなる。ただし学校の教室に正式に入るのは、ずっとあとのことだった。
いま、この言語は
危機度は「安全」。話し手は減っていない。それでも国は手を打っていて、2010年に言語法(第4251号)を定め、グアラニー語アカデミーを置いて綴りと用語を整えている。学校でも科目として教えられるようになった。
課題はむしろ都市とデジタルの側にある。役所の書類や商売の場ではスペイン語が強く、翻訳や音声認識のサービスも数が少ない。だから綴りを決め、辞書を作り、教材を用意する地味な作業が続いている。話し手が多いことと、道具がそろっていることは、別の話なのだ。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
最初にやるのは、鼻母音6つと puso(ʼ)の音を耳で分けること。ここが曖昧だと、別の単語になってしまう。文字はローマ字読みでだいたい通るので、発音の入り口は低い。
そのあとは、名詞につく -kue と -rã を試してみるといい。身のまわりの名詞に付けて「かつての」「これからの」を作るだけで、この言語の時間の感じ方が手に入る。なお数は、日常会話だと4より上はスペイン語の数詞で言うことが多い。教科書の数え方と、街で聞こえる数え方がずれても驚かなくていい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。