ことばKOTOBA
ことばの図鑑 — ナイジェリア北部・ニジェール
Harshen Hausa

ハウサ語——西アフリカの市場をつなぐ言語

母語で話す人に加え、約3,600万人があとから覚えて使う。サハラ交易の商人とともに広がり、いまは西アフリカの市場と画面をつなぐ共通語である。

2026-10-18 / 言語と物語の図鑑 編集部

どこで
ナイジェリア北部・ニジェール
話し手
約9,400万人(第二言語を含む)
系統
アフロ・アジア語族 チャド語派
危機度
安全

どこで、誰が話している?

ハウサ語は、サハラ砂漠の南に広がるサヘルのことばだ。中心はナイジェリア北部とニジェール南部。カノやカツィナといった古い商業都市を軸に、ガーナ、ベナン、カメルーン、チャド、スーダンにまで話し手が散らばっている。

Ethnologue の推計では、母語として話す人が約5,800万人、第二言語として使う人が約3,600万人。合わせて約9,400万人になり、アフリカの言語のなかでも指折りの大きさだ。母語のちがう人どうしが市場や道ばたで使う共通語としての顔が、この言語の大きな特徴である。

ナイジェリアでは国の主要言語のひとつ。ニジェールでは2025年3月の新しい憲章で国語とされ、植民地時代から公用語だったフランス語は「作業言語」に位置づけが変わった。

どんな音がする?

耳に残るのは、のどを使う子音だ。ɓ と ɗ は、息を吐かずに少し吸いこむようにして出す入破音。ƙ は、のどを閉めてから弾くように出す音で、ナイジェリアでは k' と書くこともある。英語にはない音なので、文字にもフック(かぎ)をつけて区別する。

そして声調がある。母音ひとつひとつが高い・低い・下がるの3つの調子を持ち、母音の長さも意味を分ける。ただし、ふだんの書き言葉では声調も長さも書かない。文字だけでは読めない部分を、話し手は耳で知っている。

どんな文字で書く?

いまの公式な書き方は、ラテン文字のボコ(Boko)だ。1930年代にイギリスの植民地政府が導入した。ɓ・ɗ・ƙ・ƴ のような、フックつきの文字が混ざる。

もっと古いのは、アラビア文字で書くアジャミ(Ajami)で、17世紀初めごろから使われてきた。イスラームの学問や詩はこの文字で書き継がれ、いまもアジャミで読み書きする人がいる。

Kai ɗan wace ƙasa ne? — カイ・ダン・ワチェ・カサ・ネ?「あなたはどこの国の人?」。ɗ と ƙ が1文に並ぶ

文法のクセ

名詞には男性と女性の区別がある。それは「あなた」にも及ぶ。「元気?」は、男性に言うなら Kana lafiya?、女性に言うなら Kina lafiya? になる。相手によって、たずね方の頭が変わるのだ。

もうひとつは複数形の多さ。英語のように -s をつければ済むわけではなく、単語ごとに作り方がちがう。言語学者ポール・ニューマンは、それを約20の型に分けている。また、動詞の前には主語の代名詞がかならず入る。主語を省きがちな日本語とは逆である。

この言語でしか言えない言葉

Sannu da aiki
サンヌ・ダ・アイキ
意味働いている人にかける挨拶。「お仕事に、こんにちは」とでも訳せる。ハウサ語の挨拶は、相手がいましていることに合わせて形を変える。来た人には Sannu da zuwa(来てくれて、こんにちは)、旅の途中の人には Sannu da tafiya。決まった一言ではなく、相手を見てから挨拶が決まる。
Lafiya lau
ラフィヤ・ラウ
意味「元気だよ」。lafiya は「健康」「無事」をあらわすことばで、「元気?」とたずねるときも、こたえるときも、この一語が行き来する。ハウサ語の挨拶は長いやりとりになりやすく、家族や仕事のことを順にたずねていくが、こたえはたいてい lafiya だ。

歴史をひとことで

ハウサの人びとは、7〜11世紀ごろにカノやダウラなどの都市国家を築いたとされる。16世紀にはカツィナとカノがサハラ縦断交易の大きな中心になり、革・布・金・塩が砂漠を越えた。ハウサ語は、商人とともに広がった。

イスラームも交易の道をたどって入ってきた。1804年から始まったウスマン・ダン・フォディオのジハードで多くのハウサ王国は倒れ、ソコト・カリフ国がこの地域をまとめた。1903年にはソコトがイギリスの支配を受け入れ、やがてラテン文字のボコが持ちこまれる。

いま、この言語は

危機の心配はない、元気な言語だ。放送の歴史も長く、BBCハウサ語放送は1957年3月13日、BBC初のアフリカの言語の放送として始まった。いまもVOAやドイツのDWなどがハウサ語でニュースを流している。

ナイジェリア北部のカノを中心にした映画産業はカニウッド(Kannywood)と呼ばれ、ハウサ語の映画がたくさん作られている。ことばが、市場だけでなく画面の上でも人をつないでいる。

ことばカード

こんにちは
Sannu
サンヌ
おはよう
Ina kwana?
イナ・クワーナ
元気だよ
Lafiya lau
ラフィヤ・ラウ
ありがとう
Na gode
ナ・ゴーデ
またあとで
Sai an jima
サイ・アン・ジマ
ようこそ
Sannu da zuwa
サンヌ・ダ・ズワ

「はい」は資料によって綴りがばらつくため、ここでは外した。カナは目安で、声調は書きあらわしていない。

1ɗaya2biyu3uku4huɗu5biyar

もし学ぶなら

おすすめの入り口

まずは Sannu と Na gode の2つから。そこに「da+いましていること」をつける形を覚えると、挨拶の幅が一気に広がる。BBCハウサ語のニュースは、毎日聞ける生きた教材になる。

文字は、フックのついた ɓ・ɗ・ƙ を見分けるところから始めよう。英語にない音だからこそ、聞き分けられたとき、このことばの輪郭がはっきり見えてくるはずだ。