どこで、誰が話している?
ハウサ語は、サハラ砂漠の南に広がるサヘルのことばだ。中心はナイジェリア北部とニジェール南部。カノやカツィナといった古い商業都市を軸に、ガーナ、ベナン、カメルーン、チャド、スーダンにまで話し手が散らばっている。
Ethnologue の推計では、母語として話す人が約5,800万人、第二言語として使う人が約3,600万人。合わせて約9,400万人になり、アフリカの言語のなかでも指折りの大きさだ。母語のちがう人どうしが市場や道ばたで使う共通語としての顔が、この言語の大きな特徴である。
ナイジェリアでは国の主要言語のひとつ。ニジェールでは2025年3月の新しい憲章で国語とされ、植民地時代から公用語だったフランス語は「作業言語」に位置づけが変わった。
どんな音がする?
耳に残るのは、のどを使う子音だ。ɓ と ɗ は、息を吐かずに少し吸いこむようにして出す入破音。ƙ は、のどを閉めてから弾くように出す音で、ナイジェリアでは k' と書くこともある。英語にはない音なので、文字にもフック(かぎ)をつけて区別する。
そして声調がある。母音ひとつひとつが高い・低い・下がるの3つの調子を持ち、母音の長さも意味を分ける。ただし、ふだんの書き言葉では声調も長さも書かない。文字だけでは読めない部分を、話し手は耳で知っている。
どんな文字で書く?
いまの公式な書き方は、ラテン文字のボコ(Boko)だ。1930年代にイギリスの植民地政府が導入した。ɓ・ɗ・ƙ・ƴ のような、フックつきの文字が混ざる。
もっと古いのは、アラビア文字で書くアジャミ(Ajami)で、17世紀初めごろから使われてきた。イスラームの学問や詩はこの文字で書き継がれ、いまもアジャミで読み書きする人がいる。
文法のクセ
名詞には男性と女性の区別がある。それは「あなた」にも及ぶ。「元気?」は、男性に言うなら Kana lafiya?、女性に言うなら Kina lafiya? になる。相手によって、たずね方の頭が変わるのだ。
もうひとつは複数形の多さ。英語のように -s をつければ済むわけではなく、単語ごとに作り方がちがう。言語学者ポール・ニューマンは、それを約20の型に分けている。また、動詞の前には主語の代名詞がかならず入る。主語を省きがちな日本語とは逆である。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ハウサの人びとは、7〜11世紀ごろにカノやダウラなどの都市国家を築いたとされる。16世紀にはカツィナとカノがサハラ縦断交易の大きな中心になり、革・布・金・塩が砂漠を越えた。ハウサ語は、商人とともに広がった。
イスラームも交易の道をたどって入ってきた。1804年から始まったウスマン・ダン・フォディオのジハードで多くのハウサ王国は倒れ、ソコト・カリフ国がこの地域をまとめた。1903年にはソコトがイギリスの支配を受け入れ、やがてラテン文字のボコが持ちこまれる。
いま、この言語は
危機の心配はない、元気な言語だ。放送の歴史も長く、BBCハウサ語放送は1957年3月13日、BBC初のアフリカの言語の放送として始まった。いまもVOAやドイツのDWなどがハウサ語でニュースを流している。
ナイジェリア北部のカノを中心にした映画産業はカニウッド(Kannywood)と呼ばれ、ハウサ語の映画がたくさん作られている。ことばが、市場だけでなく画面の上でも人をつないでいる。
ことばカード
「はい」は資料によって綴りがばらつくため、ここでは外した。カナは目安で、声調は書きあらわしていない。
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは Sannu と Na gode の2つから。そこに「da+いましていること」をつける形を覚えると、挨拶の幅が一気に広がる。BBCハウサ語のニュースは、毎日聞ける生きた教材になる。
文字は、フックのついた ɓ・ɗ・ƙ を見分けるところから始めよう。英語にない音だからこそ、聞き分けられたとき、このことばの輪郭がはっきり見えてくるはずだ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。