どこで、誰が話している?
ヘブライ語はイスラエルの言語だ。話し手は約900万人で、そのうち母語話者は約500万人、第二言語として使う人が約330万人とされる(2018年の推計)。1948年の建国以来、イスラエルの公用語であり続けている。国外ではアメリカにいちばん多く、流暢に話せる人が約22万人いる。
この「第二言語の話し手が多い」ことが、この言語の生い立ちを物語っている。世界各地から移り住んだ人が、大人になってからヘブライ語を身につけ、その子どもが母語として話す。国ごと、ことばを一代で受け渡してきた言語なのである。
どんな音がする?
耳に残るのは、のどの奥でこする音だ。「5」を意味する חמש(ハメシュ)の最初の音は、日本語の「ハ」よりずっと奥、ドイツ語の Bach の ch に近い。r もフランス語のように、のどの奥で鳴らす。
いっぽう母音は a・e・i・o・u の5つで、日本語話者には聞き取りやすい。「ありがとう」の תודה(トダ)、「こんにちは」の שלום(シャローム)など、カタカナでもわりと近い音が出せる。
どんな文字で書く?
ヘブライ文字で、右から左へ書く。文字は22個で、大文字と小文字の区別はない。そのかわり、5つの文字は単語の終わりに来ると形が変わる。もとはアラム文字から来ていて、角ばった見た目から「方形文字」とも呼ばれる。
いちばんの特徴は、基本的に子音しか書かないことだ。母音をあらわす点や線(ニクード)はあるが、ふだんの新聞や看板では省かれる。読む人が単語を知っていて、頭のなかで母音を補うのである。
文法のクセ
単語の骨組みは3つの子音でできた「語根」だ。כ־ת־ב(k-t-v)という子音の並びが「書く」の意味を持ち、そこに母音の型をかぶせると、כָּתַב(カタヴ=彼は書いた)、מִכְתָּב(ミフタヴ=手紙)と別の単語が生まれる。子音が意味、母音が品詞や時制を担う、という分業である。
もうひとつは性の区別の細かさ。「あなた」は相手が男性なら אַתָּה(アター)、女性なら אַתְּ(アト)と分かれ、現在形の動詞まで話し手と相手の性に合わせて形を変える。また「〜である」にあたる動詞を現在形では使わず、「ドア 閉まった」と並べるだけで「ドアは閉まっている」になる。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ヘブライ語は、旧約聖書が書かれた言語だ。しかしローマ時代の終わり、約200年ごろを境に日常の話し言葉としては使われなくなったとされる。その後も祈りや学問、書き言葉としては途切れずに受け継がれたが、家庭で子どもが覚える言葉ではなくなった。
それを話し言葉に戻そうとしたのが、エリエゼル・ベン=イェフダー(1858〜1922年)だ。1881年にエルサレムへ移り住み、家庭でヘブライ語だけを使った。1882年に生まれた長男イタマル・ベン=アヴィが、近代でヘブライ語を母語として育った最初の人になる。ベン=イェフダーは辞書をつくり、ナス(חציל ハツィル)や電気(חשמל ハシュマル)など、足りない言葉を当てていった。
決定的だったのは1913年の「言語戦争」だ。ハイファに開く工科学校の授業をドイツ語で行う計画に反発が起き、最終的にヘブライ語で教える学校(のちのテクニオン)が生まれた。1922年の調査では、パレスチナのヘブライ語話者は約8万人。そこから100年ほどで、約900万人の言語になった。
いま、この言語は
危機度は「安全」。教育、行政、軍、テレビ、ネットまで、社会のすべてがこの言語で回っている。新しい言葉づくりは、1890年に始まった言語委員会を引き継いで1953年に設立されたヘブライ語アカデミーが担い、外来語に代わる単語を数千語つくってきた。ただしアカデミー自身の名前「アカデミヤ」は外来語、というのはよく知られた皮肉である。
いっぽうで、話し言葉には英語やイディッシュ語、アラビア語からの借用が絶えず流れこむ。フィルグンがイディッシュ語から来たように、よみがえった言語は、いまも周りの言葉を吸いこみながら育っている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは22文字と、語末で形が変わる5文字を覚えること。最初は母音記号(ニクード)つきの教材で読み、慣れてきたら記号なしの文に移る。右から左へ読む感覚は、数日で意外となじむ。
次に語根を意識する。知らない単語でも、3つの子音を拾えば意味の見当がつくようになる。単語を一つずつ覚えるより、同じ語根の仲間をまとめて覚えるほうが、この言語では近道だ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。