どこで、誰が話している?
ヒンディー語は、首都デリーを含むインド北部から中部にかけての広い地域で話されている。この一帯は「ヒンディー・ベルト」と呼ばれる。インドの連邦政府の公用語で、英語と並んで政府の仕事に使われる。国の外では、ネパールにも約800万人の話し手がいる。
2011年のインド国勢調査では、母語として話す人が約3億4,500万人。第二言語として使う人を合わせると約6億1,000万人になる。さらに、パキスタンの国語ウルドゥー語とは話しことばがほぼ同じで、両方を合わせると世界で3番目に話し手の多い言語になる、という数え方もある。
どんな音がする?
日本語の耳でいちばん難しいのは、そり舌音だ。舌先を上あごの奥へ反らせて出す「タ」や「ダ」で、舌をまっすぐ歯の裏につける「タ」とは別の音として区別する。
もうひとつは、息を強く吐く音と吐かない音の区別。「カ」と「クハ」は別の音になる。「ありがとう」の धन्यवाद も、最初の音は息を伴う「ダ」で、カタカナにすると「ダンニャワード」に近い。
どんな文字で書く?
ヒンディー語はデーヴァナーガリーという文字で書く。サンスクリット語やマラーティー語、ネパール語と同じ文字だ。子音の字には「ア」の母音があらかじめ含まれていて、別の母音を足すときは記号を前後や上下につける。そして文字の上には横一本の線が引かれ、単語ごとにつながる。
ところが、ウルドゥー語は同じ話しことばをアラビア文字(ペルシア風のナスタアリーク体)で、右から左へ書く。だから同じ文が、紙の上ではまったく別の姿になる。
文法のクセ
語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞で、「に」「で」にあたることばを名詞のうしろに置く。日本語話者には組み立てやすい言語だ。
違うのは、名詞に男性と女性の2つの性があること。動詞も形容詞も、それに合わせて形を変える。さらに、過去に「〜した」と言うとき、他動詞の文では主語に「ネ(ने)」がつき、動詞は主語ではなく目的語の性に合わせて変わる。「私がパンを食べた」の「食べた」は、パンが女性名詞だから女性形になる。
「あなた」にあたる語は、ごく親しい「トゥー」、友人向けの「トゥム」、ていねいな「アープ」の3段階がある。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ヒンディー語とウルドゥー語の根っこは、デリー周辺の話しことばから育ったヒンドゥスターニー語だ。文法と日常の単語はプラークリット(古代インドの話しことば)に由来し、そこにペルシア語やアラビア語の単語が混ざって、北インドの共通語になっていった。
その後、書きことばが二つに分かれる。ヒンディー語はサンスクリット語から改まった単語を、ウルドゥー語はペルシア語・アラビア語から改まった単語を取り入れた。近代の文学語としてのヒンディー語が整ったのは19世紀のことだ。1947年のインド・パキスタン分離独立で、両国はそれぞれを国の標準語に定めた。インドでは1949年9月14日、制憲議会がデーヴァナーガリーで書くヒンディー語を公用語に採択した。この日はいまも「ヒンディー・ディワス(ヒンディー語の日)」として祝われている。
いま、この言語は
話し手の数では世界有数の大言語で、危機とは無縁だ。その広がりを支えているのがボリウッド映画である。映画のせりふや歌は、ヒンディー語ともウルドゥー語とも言い切れない話しことばで書かれ、インドでもパキスタンでも楽しまれている。
身近な違いは「ありがとう」に出る。改まったヒンディー語では धन्यवाद(ダンニャワード)、ウルドゥー語では شکریہ(シュクリヤー)。けれど日常のヒンディー語でも शुक्रिया(シュクリヤー)はふつうに使われる。ふたつの書きことばは、話しことばの中ではいまも混ざり合っている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずはデーヴァナーガリーを覚えること。上の横線と、子音に「ア」が含まれている仕組みがわかれば、看板もメニューも音に変わる。語順は日本語と同じなので、文の組み立てで迷うことは少ない。
耳から入るならボリウッド映画がいちばんの近道だ。字幕を見ながら「カル」が「きのう」なのか「あした」なのか、動詞の形で聞き分けてみるといい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。