どこで、誰が話している?
イボ語は、ナイジェリア南東部に住むイボの人びとの言語だ。アビア、アナンブラ、エボニ、エヌグ、イモの5つの州を中心に、デルタ州やリバーズ州の一部でも話される。話し手は資料によって幅があり、約3,100万〜3,400万人。ナイジェリアでは国の言語のひとつとして扱われ、カメルーンや赤道ギニアにも話し手がいる。
系統はニジェール・コンゴ語族。西隣のヨルバ語と同じ大きな家族に入るが、枝は別で、イボ語のまわりには「イボ語群」と呼ばれる近い言語がいくつも集まっている。方言の差も大きく、北と南の人どうしでは話が通じにくいことがある。
どんな音がする?
イボ語は声調言語だ。辞書では主に高と低の2つで書き分けるが、話しことばではもっと細かい高さの動きがあると言われている。有名なのが「アクワ」で、ákwá(両方高く)は「泣く」、àkwá(低・高)は「卵」、àkwà(両方低く)は「布」や「縫う」。同じ4文字が、高さだけで別の単語になる。
もうひとつの特徴が母音調和。母音は8つあり、舌の付け根を引くかどうかで2つの組に分かれる。ひとつの単語の中では、ふつう同じ組の母音どうしが並ぶ。ヨルバ語と同じく、のどの奥と唇を同時に閉じる「グブ」gbや「クプ」kpの音もある。
どんな文字で書く?
いま使われているのは、1961年に委員会がまとめたオヌ式(Ọnwụ)のラテン文字だ。全部で36文字、子音28と母音8。英語にない文字として、下に点のついたị・ọ・ụと、上に点のついたṅがある。ch・gb・gh・gw・kp・kw・nw・ny・sh の2文字の組も、それぞれ1文字として数える。
声調の記号は、低い音に「`」、高い音に「´」をつける。ただし、ふだんの文章では省くことも多い。
ラテン文字が入る前、この地域にはンシビディという記号の体系があった。もとは東隣のエジャガムの人びとが生んだもので、イボの人びとも取り入れ、壁や布、ひょうたんに描いた。いまはこれを文字として使い直そうとする動きもある。
文法のクセ
語順は英語と同じ「主語・動詞・目的語」。名詞に格の変化はなく、文の中の役割は並び順で決まる。代名詞にも男女の区別がない。ọ maka は「彼はきれいだ」にも「彼女はきれいだ」にも「それはきれいだ」にもなる。
いちばん面白いのは前置詞だ。イボ語の前置詞はna ひとつだけ。「エヌグに住む」も「戦争のあいだここにいた」も、同じ na で言う。どの意味かは文脈で決まる。そのかわり、動詞がとても働き者で、ことばの変化のほとんどを動詞が引き受けている。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
イボ語の単語が初めて本に載ったのは1777年、ドイツで出たカリブ海の宣教の記録だった。19世紀には宣教師たちが方言ごとに書き方を工夫し、1913年には複数の方言を混ぜた「ユニオン・イボ」の聖書が出て、教会での書きことばの土台になった。綴りは何度も作り直され、1961年のオヌ式で落ち着いた。
1958年、アチェベが英語で書いた小説『崩れゆく絆』が世界で読まれ、イボの暮らしとことわざが広く知られるようになる。イボの人びとにとってことわざは大切なもので、話の中にうまくことわざを混ぜられることが、ことばに通じている証とされる。
いま、この言語は
話し手は数千万人いて、危機度の分類では「安全」に入る。ただ、英語が仕事や学校で強い言語になり、家庭でイボ語を話さない子どもが増えていることを心配する研究者もいる。2006年には「50年で消える」という予測が出回り、本当かどうかをめぐって議論になった。
ことばは海も渡った。奴隷貿易で連れていかれた人びとを通じて、ジャマイカのことばでは「あなたたち」をunuと言う。これはイボ語から来たものだ。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
文字はラテン文字なので、点のついた ị・ọ・ụ・ṅ と、2文字で1つの音になる組を覚えれば読みはじめられる。声調は記号が省かれがちなので、単語は最初から記号つきで覚えておくと「卵」と「布」で迷わない。
あいさつは「ンデウォ」ひとつでかなり足りる。朝でも夜でも使え、「ようこそ」の意味にもなる。お礼は「ダールー」から。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。