どこで、誰が話している?
アイスランド語を話すのは、ほぼアイスランドに住む人だけだ。人口は約39万人で、そのほとんどがこの言語を母語にしている。国外の話し手を足しても、東京の一区より少ない。
それでも国の公用語であり、学校も役所もテレビも、すべてこの言語で動いている。話し手が少ないから弱い、という単純な話ではない。
どんな音がする?
ノルウェー語やデンマーク語と親戚だが、耳で聞くとかなり違う。息をたっぷり使う音が多く、単語の最初に必ず強いアクセントが来る。「Reykjavík(レイキャヴィーク)」も、頭の「レイ」を強く言うのがコツ。
有名なのは「ll」の読み方で、「トル」に近い音になる。首都の名前を含む「Eyjafjallajökull(エイヤフィヤトラヨークトル)」という火山名は、2010年の噴火のとき世界中のニュースキャスターを困らせた。
どんな文字で書く?
基本はアルファベットだが、英語にはない文字がある。Þ(ソーン)は英語の think の th の音、Ð(エズ)は this の th の音。どちらも1000年以上前のルーン文字や古英語に由来し、今日まで日常の文字として生き残っているのは事実上アイスランド語だけだ。
文法のクセ
名詞に男性・女性・中性の3つの性があり、さらに4つの格で形が変わる。数字の「1」から「4」まで性によって形が変わるので、「4つのリンゴ」と「4人の女性」で「4」の言い方が違う。
名字のしくみも独特だ。姓は父(または母)の名前に「-son(息子)」「-dóttir(娘)」をつけて作る。だから家族全員で名字が違うのが普通で、電話帳は名字ではなく名前の順に並ぶ。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
9世紀、ノルウェーから海を渡った人々が島に住みつき、その言葉が孤立したまま育った。ヨーロッパ大陸の言語が数百年で大きく変わるあいだ、海に囲まれたこの島の言葉は、あまり変わらなかった。
だから、13世紀に書かれたサガ(英雄や一族の物語)を、いまのアイスランド人は辞書を引き引き読むことができる。英語話者が同じ時代の英語を読もうとしても、ほとんど外国語にしか見えない。
いま、この言語は
危機度は「安全」。子どもは全員この言語で育つ。ただし新しい心配がある。スマートスピーカーや音声アシスタントの多くがアイスランド語を理解しないため、子どもが機械に向かって英語で話す場面が増えているのだ。政府はこれを「デジタルの少数派化」と呼び、言語技術への投資を続けている。
そして、外来語を入れない伝統はいまも生きている。新しい言葉が必要になると、専門の委員会や市民が古い語根から候補を作り、定着したものが辞書に載る。11月16日は「アイスランド語の日」で、詩人ヨウナス・ハットルグリムソンの誕生日に定められている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
アイスランド大学が無料で公開しているオンライン教材「Icelandic Online」が定番。英語ができれば、そこから入るのが早い。
Þ と Ð の読み方を最初に覚えると、看板や地名が急に読めるようになる。まずは首都 Reykjavík の発音から。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。