どこで、誰が話している?
ジャワ語は、インドネシアのジャワ島の中部から東部にかけて話されていることばである。母語にする人は約6,800万人(2015年の推計)。オーストロネシア語族の中でも、とびきり話し手の多い言語だ。ジャワ島の外でも、スマトラ島のランプンや北スマトラ、マレーシアやシンガポール、さらに南米のスリナム(約6万人)や南太平洋のニューカレドニアに、移り住んだ人びとの子孫が暮らしている。
国の公用語はインドネシア語だが、2021年からはジョグジャカルタ特別州で、州の公用語としても位置づけられている。
どんな音がする?
耳に残るのは「ア」が「オ」に聞こえることだ。単語の終わりなどで a は「オ」に近く発音され、「〜のように」の kaya は「コヨ」と聞こえる。数字の5 lima も「リモ」に近い。
もうひとつの特徴は、舌先を歯に当てる t・d と、舌をそり返す th・dh を区別すること。さらに b・d・g などの「濁った」音は、実は声帯をふるわせずに出し、そのあとの母音を息まじりにすることで区別している。日本語の耳には、やわらかくこもった響きに聞こえる。
どんな文字で書く?
いまふつうに使うのはラテン文字で、1926年にオランダ語式の綴りが定められ、1972〜1973年に改められた。けれどジャワ語には、自前のジャワ文字(アクサラ・ジャワ)がある。インドから伝わったブラーフミー系の文字が、古いカウィ文字を経て育ったもので、現代のジャワ語では基本の子音字が20ある。単語のあいだに空白を入れずに書き、子音が続くときは次の字を下に添える。
20の文字は、4行の詩のように並べて覚える。最初の5字をとって、この文字は「ハナチャラカ」とも呼ばれる。
このほか、イスラームとともに広まったアラビア文字をもとにしたペゴンという書き方もある。
文法のクセ
語順は日本語とちがって「主語・動詞・目的語」。動詞には時制の形がなく、「もう」「きのう」といった語を添えて時を表す。wong(人)を wong-wong と重ねると「人びと」になる、くり返しの仕組みもある。
そしていちばんのクセが、話す相手で単語そのものが入れかわることだ。くだけたンゴコと、ていねいなクロモという言葉づかいの段があり、「食べる」はンゴコで mangan、クロモで nedha、目上の人が食べることを言うときは dhahar。「はい」は iya と inggih、「いいえ」は ora と mboten。数字まで変わり、「2」は loro と kalih になる。「あなた」にいたっては kowé・samang・sampéyan・panjenengan と、相手との距離に応じて4段ある。語尾を変える日本語の敬語とちがい、単語ごと別のものに取りかえるのである。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
記録に残るいちばん古いジャワ語は、東ジャワのクディリで見つかった804年の碑文である。この古ジャワ語の時代には、ヒンドゥー教や仏教とともにサンスクリット語が流れこみ、文学のことばのおよそ半分がサンスクリット語からの借用だったとされる。
近代に入るとラテン文字が広まり、印刷にかかる紙が倍ほどになることもあって、ジャワ文字の本は減っていく。1942年からの日本の占領期には、ジャワ文字の使用が大きく落ちこんだ。
いま、この言語は
話し手の数はいまも多く、くだけたンゴコは日常で安定して使われている。一方で、ていねいなクロモは、ンゴコより深刻な状況にあるとされる。ジョグジャカルタの調査では、家庭で子どもにジャワ語を伝えない親も多く、子どもは友だちどうしの中でジャワ語を覚えることが多いという。インドネシア語や英語の存在感が増すなかで、敬語の段をどう受けつぐかが課題になっている。デジタルの面では、2009年にジャワ文字がUnicode 5.2に入り、画面の上でも書けるようになった。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
ラテン文字で書けるので、読むだけなら入り口は低い。まずは「ア」が「オ」に聞こえる場所に耳を慣らし、Matur nuwun(ありがとう)からはじめよう。
そのうえで、数字を2通り覚えてみるとこの言語のおもしろさがわかる。ンゴコの siji・loro・telu と、クロモの setunggal・kalih・tiga。相手によって数え方まで変わる感覚が、ジャワ語の入り口である。ジャワ文字に進むなら、ハナチャラカの4行を唱えながら20字を覚えるのが昔からのやり方だ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。