どこで、誰が話している?
ジョージア語は、黒海とカスピ海のあいだ、コーカサスの国ジョージアの公用語だ。母語話者は約380万人。国の名前は現地ではサカルトヴェロ、ことばはカルトゥリと呼ばれる。
系統はカルトヴェリ語族。インド・ヨーロッパ語族でも、隣のトルコ語のテュルク語族でもない、コーカサス南部だけにある小さな語族だ。いちばん近い親戚は国内西部のメグレル語や、トルコ側にも話し手がいるラズ語で、分かれたのは約2,700年前と見積もられている。
どんな音がする?
母音は5つで日本語と同じ数だが、子音は約28ある。とくに有名なのが、子音がいくつも続く子音連続だ。გვფრცქვნი(グヴプルツクヴニ)は「きみは私たちの皮をむく」という意味の一語で、頭に8つの子音が並ぶ。
もうひとつの特徴が、息をためてのどで弾く「放出音」だ。「カ」「ツ」「チ」などに、ふつうの音・息を強く出す音・のどで弾く音の3種類があり、それぞれ別の文字で書き分ける。
どんな文字で書く?
ジョージアには3つの文字体系がある。5世紀にさかのぼる最古のアソムタヴルリ、9世紀に現れたヌスフリ、10世紀に現れて今の日常で使われるムヘドルリだ。古い2つは主に教会の文書で使われている。この3つの文字が生きている文化は、2016年にユネスコの無形文化遺産になった。
いまのムヘドルリは33文字で、丸みのある形が特徴だ。ふだんは大文字と小文字の区別がない。見出しを目立たせるときだけ、大文字にあたる「ムタヴルリ」を使う。このムタヴルリは2018年、Unicode 11 でようやくコンピュータの文字として加わった。
文法のクセ
名詞に男性・女性の区別はなく、冠詞もない。格は7つある。そのかわり動詞がとても働き者で、「誰が」だけでなく「誰に・誰を」までひとつの動詞の形の中に組み込める。さっきの「きみは私たちの皮をむく」が一語になるのは、そのためだ。
もうひとつ、過去の文では主語の形が変わる「能格」というしくみがある。同じ「私」でも、今の文と過去の文で主語の語尾が入れ替わる。日本語の「が」がいつも同じなのとは、だいぶ感覚が違う。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ジョージア文字は紀元前3世紀のパルナヴァズ王が作ったという言い伝えがあるが、裏づけはなく、研究者のあいだでは伝説と見られている。確実に残る最古の碑文は5世紀のもの。現存する最古の文学作品『聖シュシャニクの殉教』も、476年から484年ごろに書かれた。
12〜13世紀の「黄金時代」には、国民詩人ショタ・ルスタヴェリが叙事詩『豹皮の騎士』を残した。1600を超える四行詩からなり、40以上の言語に訳されている。ソ連の一部だった1978年4月14日には、憲法からジョージア語の「国家語」の地位を外す案に学生たちが大規模な抗議を行い、案は撤回された。この日はいまも「ジョージア語の日」として祝われている。
いま、この言語は
危機度は「安全」。行政・教育・出版・放送はジョージア語で動いていて、国の外には文字の美しさにひかれて学ぶ人もいる。
いっぽうで、同じ語族のメグレル語やスヴァン語は話し手が減っていて、ユネスコの危機言語にも挙げられている。大きな言語の足元で、親戚のことばをどう残すかが次の課題になっている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは33文字のムヘドルリを覚えるところから。大文字・小文字の区別がないので、ひとつの形を覚えればすむ。綴りと発音のずれも小さく、文字さえ読めれば声に出せる。
あいさつの「ガマルジョバ」は、「勝利」を意味することばから来ているといわれる。会うたびに相手の勝利を願う、と思って口にすると、覚えやすい。山場は動詞と子音連続。まずは「マドロバ」から始めたい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。