どこで、誰が話している?
カザフ語は、中央アジアのカザフスタンの国語である。母語の話し手は約1,600万人(2021年の国勢調査にもとづく推計)。カザフスタンのほか、中国の新疆にあるイリ・カザフ自治州、モンゴル西部のバヤン・ウルギー県、ロシア、キルギス、ウズベキスタンにも話し手がいる。ロシアのアルタイ共和国でも公用語のひとつになっている。
カザフスタンでは、ロシア語も役所や街なかで広く使われる。国語はカザフ語、そのとなりにロシア語がある——という二本立てが、この国のことばの風景だ。
どんな音がする?
耳に残るのは、のどの奥で鳴る音だ。「ありがとう」は Рақмет(ラクメット)。2文字めの қ は、日本語の「ク」よりずっと奥、のどちんこのあたりで出す音である。
もうひとつの特徴が母音調和。単語の中の母音が、舌の位置の「前」か「後ろ」かでそろう。だから、うしろにつける語尾も母音に合わせて形を変える。複数形なら「本」кітап は кітаптар、「家」үй は үйлер。同じ「〜たち」が、単語によって -тар にも -лер にもなる。
どんな文字で書く?
いま主に使われているのはキリル文字で、全部で42文字。ロシア語と同じ33文字に、カザフ語の音のための9文字(Ә Ғ Қ Ң Ө Ұ Ү Һ І)を足している。
ただし、この文字は「途中」にある。カザフ語は11世紀ごろからアラビア文字で書かれ、1929年にラテン文字、1940年にキリル文字へと切り替わった。そして2017年、大統領令でふたたびラテン文字へ移ると決めた。中国に住むカザフの人々は、いまもアラビア文字で書いている。同じ言語が、国境の向こうとこちらで3種類の文字を持っているわけだ。
文法のクセ
語順は日本語と同じく、動詞が最後に来る。単語のうしろに語尾を次々とつなげていく膠着語で、名詞には7つの格がある。「〜を」「〜に」「〜で」「〜から」を、助詞のかわりに語尾で言う感覚は、日本語の話し手にはなじみやすい。
一方で、名詞に男性・女性の区別はない。英語の he と she のように、「彼」と「彼女」を分ける単語もない。トルコ語やキルギス語と同じ、テュルク系の言語らしい姿である。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
カザフの国のはじまりとして語られるのは、1465年ごろ、ケレイとジャニベクの2人が率いた人々がつくったカザフ・ハン国である。遊牧の暮らしの中で、ことばは長いあいだ口承の歌や物語で伝えられてきた。
19世紀には詩人アバイ・クナンバイウリ(1845〜1904)が、詩や散文集『黒い言葉』(Қара сөздер)で、教育と学ぶことの大切さを説いた。その後、ソ連の時代に文字は2度変えられ、話し手の暮らしの中でロシア語の存在がぐっと大きくなった。
いま、この言語は
話し手は多く、言語として消える心配はない。いちばんの話題は、やはり文字の切り替えだ。2017年の大統領令では2025年までにラテン文字へ移る予定だったが、アポストロフィを使った案、アキュート記号を使った案と、字の形が何度も見直された。2021年には31文字の新しい案が示され、移行は2023年から2031年にかけて段階的に進める計画になった。
看板や本、パソコンやスマホの入力まで、国じゅうの文字を入れ替えるのは時間のかかる仕事である。カザフ語はいま、自分の書き方を選び直している最中の言語だといえる。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずはキリル文字から。ロシア語と共通の33文字を覚え、そこにカザフ語だけの9文字を足せば、街の看板が声に出して読めるようになる。қ や ғ のようなのどの奥の音は、「ありがとう」の Рақмет で何度も練習するといい。
文法は、語順や語尾のつなげ方が日本語に近いので、組み立て方そのものには入りやすい。母音調和で語尾がどう変わるかを、複数形の -тар/-лер あたりから少しずつ体にしみこませていこう。ラテン文字の新しい綴りも、あわせて目にしておくと、これからの変化を楽しめる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。