どこで、誰が話している?
クメール語はカンボジアの公用語で、国の人びとの大半が母語として話している。母語話者は約1,900万人、第二言語として使う人を合わせると約2,000万人ほどになる。カンボジアのほか、タイ東北部やベトナム南部のメコン・デルタにも話し手がいて、どちらの国でも少数派の言語として認められている。
系統はオーストロアジア語族。となりのタイ語やラオス語とは別の家系で、遠い親戚はベトナム語のほうだ。カンボジアの国名を、クメール語では「カンプチア(កម្ពុជា)」と言う。
どんな音がする?
まわりのタイ語・ラオス語・ベトナム語は声調で単語を分けるが、標準のクメール語には声調がない。そのかわり母音がとても多い。長い・短いの区別や二重母音まで数えると、日本語の5つよりずっと多く、分析のしかたによって数が変わるほどだ。
もうひとつは、語の頭に子音が2つ続く音がよく出ること。5は「プラム(ប្រាំ)」で、プとラがくっついて一息に出る。そして数の数え方がおもしろい。6は「プラム・ムオイ」、つまり「5と1」。7は「5と2」、9は「5と4」と、5を土台に組み立てていく。
どんな文字で書く?
クメール文字は、南インドのパッラヴァ文字から作られた文字だ。日付がわかるいちばん古いクメール語の碑文は、タケオ州アンコール・ボレイで見つかった611年のものとされる。
子音字はもともと35あり、いまは33を使う。そこに母音の記号やそれだけで立つ母音字、小さな記号が加わる。ギネス世界記録はクメール文字を74文字として、もっとも文字数の多いアルファベットに挙げている。数え方には使われなくなった字も含まれているので、何文字とするかは資料によって変わる。
見た目の特徴は、子音が2つ重なるとき、2つ目の子音が小さな形になって下にぶら下がること。これを「チューン・アクサー(文字の足)」と呼ぶ。単語のあいだに空白は入れず、英語ならカンマを打つあたりで空白を置く。
文法のクセ
語順は「主語・動詞・目的語」で、日本語とは逆。形容詞などの飾りは、飾る語のうしろに置く。「大きな家」は「家・大きい」の順になる。動詞は人称や時制で形を変えず、時は「もう」「これから」といった語を足して表す。
そのかわり、話し相手との関係で代名詞を選び分ける。相手が年上か年下か、僧侶か王族かで「あなた」も「わたし」も変わり、僧侶や王族について話すときは専用の語彙まで用意されている。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
802年から1431年まで続いたクメール王朝は、東南アジア大陸部の広い範囲を治めた。宗教の場ではサンスクリット語、ふだんの言葉には古クメール語が使われ、12世紀にはスーリヤヴァルマン2世のもとでアンコール・ワットが建てられた。仏教とともにパーリ語やサンスクリット語の単語が多く入り、とくに王族や仏教のことばに残っている。
フランス統治の時代には、高等教育の言語がフランス語になった。それに対して、僧侶チュオン・ナートはパーリ語・サンスクリット語の語根から新しいクメール語の単語を作る道を進め、1938年に初版が出た近代のクメール語辞書の礎を築いた。現在の国歌の作詞・作曲も彼である。
いま、この言語は
危機度は「安全」。行政も教育も放送もクメール語で動いている。ただ、この言語には深い傷の時代があった。1975年から1979年のポル・ポト政権のもとで学校は閉ざされ、政府の推計では教師の約75%が命を落とした。読み書きを教える人を一度失ったところから、教育は立て直されてきた。
いまの首都プノンペンの話し言葉では、r の音が落ちるかわりに声の上がり下がりで単語を区別する、新しい声調のような現象が生まれつつある。声調のない言語の中で、少しずつ音が動いている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
最初の山は文字だ。子音が「a の組」と「o の組」の2つのグループに分かれていて、同じ母音記号でも、どちらの子音につくかで読み方が変わる。まずは子音33字を、2つの組に分けて覚えるところから始めたい。
いっぽうで、動詞は形を変えず、声調もない。数も1から5を覚えれば9まで組み立てられる。「オークン」と手を合わせるソンペアから入れば、カンボジアの人との距離がひとつ縮まるはずだ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。