どこで、誰が話している?
韓国語を話すのは、おもに朝鮮半島に住む人だ。母語話者は約7,700万人で、内訳は韓国に約5,100万人、北朝鮮に約2,600万人。これに海外の同胞や学習者を加えると、話し手はおよそ8,000万人規模になる。世界の言語の中では、話者数で20位前後に入る大きな言語である。
韓国と北朝鮮の両方で唯一の公用語であり、さらに中国・吉林省の延辺朝鮮族自治州でも公用語のひとつとして使われている。系統は朝鮮語族。近い親戚がほとんど見つかっていない、事実上ひとりぼっちの一族だ。
どんな音がする?
日本語話者がまずつまずくのは、子音の三段構え。平音・激音・濃音という3種類があって、ㄱ(カ行の弱い音)/ㅋ(息を強く出す音)/ㄲ(喉を詰めて出す音)が全部べつの文字、べつの単語をつくる。日本語の「か」と「が」のような有声・無声の区別ではないので、耳のチューニングを一度やり直すことになる。
もうひとつはパッチム。音節の終わりに子音がそのまま残る仕組みで、「한(ハン)」の n のように、母音をつけずに子音で終わる。日本語には「ん」しかないぶん、ここは練習がいる。ただし母音は日本語よりやや多い程度で、全体としてはリズムの取りやすい響きだ。
どんな文字で書く?
ハングル。いま使われている字母は子音14・母音10の24文字で、これを音節ごとに四角くまとめて書く。「한」なら ㅎ+ㅏ+ㄴ が一つの升に収まっている。並べるのではなく、組み上げる文字だ。
おもしろいのは、形の決め方に理屈があること。子音の字は発音するときの舌や唇のかたちをかたどっている。ㄱ は舌の奥が上あごに触れる形、ㅁ は閉じた口の形、というふうに。母音は「天(点)・地(横線)・人(縦線)」の3つの部品の組み合わせでできている。似た音の文字が似た形になる——この設計のしかたは、世界の文字の中でもかなり珍しい。
文法のクセ
語順は日本語とほぼ同じで、主語・目的語・動詞の順。「〜は」「〜を」にあたる助詞もあり、文の組み立て方は日本語話者にとってかなり楽な部類に入る。文法上の性もない。
手ごわいのは敬語のほうだ。韓国語では、丁寧さの段階が動詞の語尾そのものに現れる。同じ「行く」でも 갑니다(かしこまった場)/가요(ふつうの丁寧)/가(親しい相手)と形が変わり、どれを選ぶかは相手との関係で決まる。単語を覚えるだけでは足りず、「誰に向かって言うか」を毎回決めながら話すことになる。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ハングルには、作った人と生まれた年がはっきりわかっている。朝鮮王朝の世宗が1443年に28文字を定め、1446年にその原理を説いた『訓民正音』を公にした。目的は明快で、漢字が読めない民が自分の言いたいことを書けるようにするためだった。「訓民正音」とは「民を教える正しい音」という意味である。
ただし、すぐに主役になったわけではない。長いあいだ公の文書は漢文で書かれ、ハングルは「諺文(オンムン)」と見下されもした。公文書の基本にハングルが据えられたのは、1894年の甲午改革のときだ。さらに、文字の設計原理を書いた解説部分は一度失われ、1940年に慶尚北道の安東で写本が見つかってようやく全容がわかった。この本は1962年に韓国の国宝に、1997年にはユネスコの「世界の記憶」に登録されている。
いま、この言語は
危機度は「安全」。教育も行政も出版も、この言語で回っている。10月9日はハングルの日で、一度は休日から外れたものの、2013年からふたたび祝日に戻った。
デジタルとの相性もいい。24の字母を音節に組む仕組みは、そのまま入力方式になっている。韓国語のキーボードは左手側に子音、右手側に母音が並び、打った順に文字が組み上がる。ユネスコには1989年に韓国政府の拠出で創設された世宗大王識字賞があり、識字に貢献した団体に毎年贈られている。文字をつくった王の名前が、世界の識字の賞になっている、というわけだ。
いっぽう、南北で70年以上ぶんの語彙の差が開いてきたことは、しばしば問題として語られる。同じ言語であることは変わらないが、外来語の扱いなどで食い違いが出ている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずハングルを覚えるのがいい。理屈でできている文字なので、丸暗記の量が少なく、数日から2週間ほどで読めるようになる人が多い。読めるようになると、街の看板も歌詞も急に手がかりに変わる。
教材は、韓国政府が運営する無料のオンライン講座 King Sejong Institute(世宗学堂)が入り口として使いやすい。次の関門は敬語の語尾で、まずは 해요体(가요 の形)ひとつを固めてから、かしこまった 합니다体に広げるのが定番の順序だ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。