どこで、誰が話している?
ラオス語はラオス人民民主共和国の公用語だ。首都ビエンチャンのことばが標準になっていて、母語話者は約370万人(2015年)、第二言語として使う人が約80万人いる。ラオスには多くの民族が暮らしているので、家では別のことばを話し、外ではラオス語、という人も少なくない。
おもしろいのは国境の向こうだ。メコン川をはさんだタイ東北部(イサーン)では、約1,300万〜1,600万人がイサーン語を母語にしている。これはラオス語がタイの側で育ったもので、綴りや一部の単語はちがうが、中身はほぼ同じことばとされる。ラオス語の話し手全体で見ると、8割以上がタイに住んでいる計算になる。系統はタイ・カダイ語族で、タイ語とは互いにかなり話が通じる。
どんな音がする?
ラオス語は声の高さで単語を分ける声調言語で、ビエンチャンのことばには6つの声調がある。北部の方言では5つになる。単語の多くは1音節で、音の高低がそのまま意味の差になる。
タイ語と比べたときの目立つちがいのひとつが、r の音だ。ラオス語の話し手の多くは r を l のように発音する。そのため r を表す字 ຣ は、いったん綴りから外されたほどだ。いまは外国の地名や人名を書くために、学校でふたたび教えられている。
どんな文字で書く?
ラオス文字は、子音字に母音の記号をくっつけて書く文字だ。子音字は27、母音は33、声調記号は4つ。タイ文字の子音字が44あるのに比べるとずいぶん少ない。発音どおりに書けるよう、20世紀に綴りが整理されてきたからだ。
字の形はタイ文字よりも丸みが強い。そしてタイ語と同じく、単語と単語のあいだに空白を入れない。空白は句や文の切れ目に置かれ、読点や句点の代わりになる。
文法のクセ
単語の形が変わらない。動詞の活用も、名詞の格変化もない。語順は「主語・動詞・目的語」で、主語はよく省かれる。時を表すときは、動詞の前に小さな語を置く。たとえば ຊິ(シ)を置くと「これからする」という意味になる。
タイ語との細かなちがいとして、ラオス語は代名詞をよく使うと言われる。文の終わりには ເດີ້(ドゥー)や ແດ່(デー)のような小さな語を添えて、語気をやわらげたり、ていねいにしたりする。「ありがとう」も、ຂອບໃຈຫຼາຍໆ ເດີ້(コープチャイ ラーイラーイ ドゥー)と言うと「本当にありがとうね」くらいの温度になる。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
1354年、メコン川流域にラーンサーン王国が生まれた。「百万頭の象」を意味する名をもつこの王国が、いまのラオスのもとになった。15世紀の後半には、タイのスコータイ文字の一種がメコン流域に伝わり、タイ側とラオス側で字の形が少しずつ分かれていく。さかのぼれば、どちらもアンコールの古いクメール文字にたどり着く。
19世紀末から、ラオスはフランスの保護国となった(1893〜1953年)。いっぽうタイ側のイサーンでは、20世紀前半のタイ化政策のなかで、地元の文字(タイ・ノーイ文字)が使われなくなっていった。ラオスでは1960年代に綴りを発音どおりに整理し、1975年の体制の変化とあわせて綴りの改革が進んだ。同じことばが、国境で別々の書き方を持つようになったわけだ。
いま、この言語は
危機度は「安全」。ラオスでは行政・教育・放送がラオス語で動いている。ただ、話し手の多くが住むタイ東北部では、学校もテレビもタイ語が中心で、イサーン語は書き言葉としてはほとんど使われない。話すのはラオス語に近いことば、書くのはタイ文字、という暮らしがふつうだ。
デジタルでは、ラオス文字はUnicodeに収録されていて、2019年にはパーリ語やサンスクリット語を書くための拡張文字も加わった。タイ語と同じく単語を空白で区切らないので、検索や翻訳では単語の切れ目を見つける処理が欠かせない。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
米国ノーザンイリノイ大学の東南アジア言語サイト SEAsite には、ラオス語の文法ノートや基本会話がまとまっていて、文字と音を見比べながら読める。タイ語をすこし知っている人なら、同じ単語が少しちがう綴りで出てくるのを探すだけでも楽しい。
最初の山は6つの声調と、子音の種類によって声調が決まるしくみ。いっぽうで活用はなく、文法の入り口はやさしい。まずは「サバーイディー」と「コープチャイ」を、声の上げ下げごと真似するところから始めたい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。