どこで、誰が話している?
リトアニア語は、バルト海の東岸にあるリトアニアの国語である。リトアニア国内で母語にする人は約280万人、国の外にも約150万人がいて、アメリカ・イギリス・カナダ・アルゼンチン・ブラジル・オーストラリアなどに移り住んだ人びとのコミュニティがある。母語ではないが毎日リトアニア語で暮らす人も、国内に約50万人いる。
2004年にリトアニアが加わってからは、EUの公用語のひとつでもある。お隣のポーランドとベラルーシでは、少数言語として認められている。
どんな音がする?
リトアニア語のアクセントは、単語のどこに来てもよい自由アクセントだ。しかも長い音節には、声が下がる調子と上がる調子の2種類があり、それで意味が分かれることがある。ふだんの文章ではこのアクセント記号を書かないので、学ぶ人は単語ごとに耳で覚えることになる。
音の手ざわりはやわらかい。「ありがとう」の ačiū は「アーチュー」、「こんにちは」の labas は「ラーバス」。語尾の -as・-is・-us がよく響くのも、この言語らしいところだ。
どんな文字で書く?
文字はラテン文字で、アルファベットは32文字。q・w・x は使わない代わりに、ą・ę・į・ų のように文字の下に小さなしっぽ(オゴネク)がついた字や、点のついた ė、横棒のついた ū、そして č・š・ž がある。しっぽや横棒や点は、もともと母音の長さを表すしるしである。
文法のクセ
名詞には7つの格があり、主格・属格・与格・対格・具格・位格に、呼びかけの形(呼格)が加わる。名詞の性は男性と女性の2つだが、形容詞や代名詞には中性の形も残っている。昔のリトアニア語には「2つのもの」だけを表す双数があり、いまも一部の方言に生きている。
そしてこの言語が言語学者に大事にされてきた理由が、古い形をよく残していることだ。インド・ヨーロッパ語族のなかでも文法と発音が保守的で、古代インドのサンスクリット語や古代ギリシャ語に見られる特徴を、いまの話しことばが持っている。たとえば「息子」はリトアニア語で sūnus、サンスクリット語で sūnú。どちらも同じ祖先のことばにさかのぼる。
古いだけではない。動詞の分詞の仕組みは、インド・ヨーロッパ語族の中でいちばん豊かだとされ、名詞に「小さな」「かわいい」の気持ちをそえる指小辞(しょうじ)の語尾もたくさんある。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
リトアニア語は、北どなりのラトビア語とともにバルト語派をつくる。2つの言語は800年ごろから分かれはじめ、いまは近い親戚だが話は通じない。記録に残るいちばん古いリトアニア語は、1207年の年代記に出てくる「Ba」という間投詞ひとつ。まとまった文章としては、1503〜1525年ごろに書き写された祈りの文が残り、1547年には最初の本、マジュヴィダスの『教理問答』が印刷された。
19世紀後半の出版禁止は、かえって人びとの言語への思いを強めた。読み書きできるリトアニア人は1897年には約54%だったが、1939年には人口の約92%に達している。
いま、この言語は
国語として、学校・役所・メディア・本のすべてで使われており、言語としては安定している。方言は大きく、東側のアウクシュタイティヤ方言と西側のジェマイティヤ方言に分かれ、それぞれがさらに細かい方言に分かれている。国の中だけでなく、移り住んだ先のコミュニティでも話されつづけ、母語ではない住民の約50万人も毎日この言語を使って暮らしている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
ラテン文字なので、しっぽのついた ą・ę・į・ų と č・š・ž の読み方を覚えれば、すぐに声に出して読める。まずは Labas(こんにちは)と Ačiū(ありがとう)から。
文法に進むと、7つの格と自由アクセントが待っている。手ごわいが、そのぶん「何千年も前のことばの形が、いまの会話に残っている」という手ざわりを味わえる。サンスクリット語や古代ギリシャ語を学んだことのある人なら、見覚えのある形に何度も出会うはずだ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。