どこで、誰が話している?
マダガスカル語は、アフリカ大陸の東、インド洋に浮かぶ島国マダガスカルのことばである。話し手は約2,500万人。2010年の憲法で、フランス語とならぶ公用語と定められている。となりのフランス領マヨット島でも、マダガスカル語の方言「キブシ」が話されている。
島の中にはいくつもの方言があり、標準語のもとになったのは、首都アンタナナリボのある中央高地のメリナ方言だ。役所や放送で使われるのも、この標準マダガスカル語である。
どんな音がする?
「ありがとう」は Misaotra(ミサオチャ)。アクセントはふつう後ろから2番めの音節にあり、そのあとの母音は弱く、かすれるように発音される。だから、書いた文字のわりに、耳には短く聞こえる単語が多い。
綴りと音のずれにも慣れが要る。文字の o は「ウ」に近い音で読み、「オ」の音は ô や ao、oa と書く。「さようなら」の Veloma は、ヴェルマに近く聞こえる。
どんな文字で書く?
いまはラテン文字で書く。アルファベットは21文字で、c・q・u・w・x は外来語にしか出てこない。同じ「イ」の音でも、単語の終わりは y、それ以外は i と書き分けるのが決まりだ。
ラテン文字になったのは1823年、メリナ王国のラダマ1世が、宣教師デイヴィッド・ジョーンズのつくった綴り方を選んだときである。それより前には、アラビア文字をもとにしたソラベという文字があり、島の南東部で15世紀ごろから使われていた。残っている写本の多くは、まじないや一族の由来を記したものだ。
文法のクセ
上の文のとおり、語順は動詞・目的語・主語。「読む、本を、生徒が」と、主語がいちばん最後に来る。世界の言語の中でも、この並びはかなり少数派だ。
時制は、動詞の頭の1文字で切り替える。「買う」は mividy、「買った」は nividy、「買うだろう」は hividy。m が n になると過去、h になると未来である。また「わたしたち」には、話し相手を含む isika と、含まない izahay の2つがある。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
アフリカのすぐそばの島なのに、マダガスカル語はアフリカの言語ではない。オーストロネシア語族に属し、いちばん近い親戚は、遠く東南アジアのボルネオ島で話されるマアニャン語である。この近さを確かめたのは、ノルウェーの言語学者オットー・ダールで、1951年の研究だった。
東南アジアから海を渡った人びとが島に住みはじめたのは、5世紀ごろ、あるいは7〜13世紀ごろと考えられ、年代には説の幅がある。その後、およそ1000年ごろからアフリカのバントゥー系の人びとやアラブの人びとと交わり、ことばにもバントゥー諸語やアラビア語の単語が入った。近代にはフランス語からも多くを借りている。
いま、この言語は
話し手は多く、島じゅうで日常的に使われている。消える心配のある言語ではない。一方で、学校や仕事の場ではフランス語の存在も大きく、2つの公用語がどう役割を分けあうかは、この国でくり返し話しあわれてきたテーマだ。インド洋を越えてきたことばは、いまもアフリカの島で、いちばん身近な声として生きている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
文字はラテン文字で21字だけなので、読み方の決まりを覚えれば早い段階で声に出せる。まずは「o はウ」「最後の y はイ」の2つを押さえ、Misaotra や Veloma をくり返してみよう。
文法では、動詞が先、主語が最後という語順に耳を慣らすのが近道だ。mividy/nividy/hividy のように、頭の1文字で時が変わる動詞をいくつか並べて覚えると、文の組み立てが見えてくる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。