どこで、誰が話している?
マオリ語はニュージーランドの先住民マオリのことばだ。現地ではふつう te reo Māori(テ・レオ・マオリ)、つまり「マオリのことば」と呼ばれる。1987年のマオリ語法で、英語より先に法律で定められた公用語になった。
2023年の国勢調査では、マオリ語で日常の会話ができると答えた人は約21万人、国全体の約4%だった。2018年の約19万人から増えている。ただしマオリの人びとのなかで話せる人の割合は約19%で、10年前とほとんど変わっていない。
どんな音がする?
母音は a・e・i・o・u の5つで、それぞれに長い・短いがある。子音は p・t・k・m・n・ng・w・wh・r・h の10個。音節はかならず母音で終わり、子音が続くこともない。日本語話者には発音しやすい部類だ。
気をつけたいのは2つ。wh は今の話し手の多くが「フ」に近い音で言う。ng は「ング」ではなく、鼻にぬける一つの子音で、単語の頭にも来る。長い母音は区別が大事で、kēkē は「わき」、keke は「ケーキ」になる。
どんな文字で書く?
もともと文字はなく、系譜も物語も口で伝えられた。書き方の土台ができたのは19世紀のはじめ。1820年、北島のンガプヒの首長ホンギ・ヒカとその親族ワイカトが宣教師ケンダルとともにイギリスへ渡り、ケンブリッジ大学の言語学者サミュエル・リーと文法と語彙の本をまとめた。
使う文字はラテン文字で、wh と ng を2文字で1音として数える。長い母音にはマクロン(ā のような横棒)をつける。
文法のクセ
語順は動詞が先。上の文のように、時制を示す小さな語、動詞、主語の順に並ぶ。「わたしたち」は数と相手で分かれ、tāua は「あなたと私」、māua は「あの人と私(あなたは入らない)」、3人以上なら tātou と mātou を使い分ける。
いちばん面白いのは「わたしの」が2種類あることだ。自分が面倒を見る・自由にできるものには a の形(tāku)、自分では選べない・自分がその内側にいるものには o の形(tōku)を使う。わが子は tāku tamaiti、親は tōku matua。体の部分や気持ち、服、乗り物も o の側に入る。持ち物をどう持っているかが、文法に出るのである。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
マオリ語は、太平洋を船で渡ってきたポリネシアの人びとが持ちこんだ言語で、タヒチ語やクック諸島のマオリ語と近い親戚にあたる。19世紀、イギリスからの入植が進むと状況が変わる。1867年の先住民学校法で村ごとに学校がつくられたが、その第一の目的は英語を教えることだった。やがてマオリ語を話した子どもが学校で罰を受けるようになる。
第二次世界大戦のあと、多くのマオリが仕事を求めて都市へ移り、家庭でも英語が中心になった。1970年代、リチャード・ベントンらの大規模な調査が、子どもにことばが受け渡されていないことをはっきり示した。
いま、この言語は
1972年9月14日、約3万人の署名を集めた請願が国会に届けられ、学校でマオリ語を教えるよう求めた。この日は「マオリ語の日」となり、3年後にマオリ語週間へ広がった。
そして1982年4月、ウェリントン近郊ワイヌイオマタで最初のコハンガ・レオ(言語の巣)が開く。年長の話し手が乳幼児とマオリ語だけで過ごす場だ。翌1983年には全国で100を超え、1985年にはマオリ語で学ぶ小学校「クラ・カウパパ・マオリ」も始まった。1986年にはワイタンギ審判所が、マオリ語は条約が守るべきタオンガ(宝)だと認め、翌年の公用語化につながる。話し手は増えているが、ユネスコの分類はまだ「脆弱」。家庭で次の世代へ渡す流れを太くすることが、いまの課題だ。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
辞書はウェブの Te Aka Māori Dictionary(maoridictionary.co.nz)が定番で、例文と音声つきで引ける。最初にやることは、マクロンを読み飛ばさないこと。長い母音を落とすと、別の単語になってしまう。
文法でつまずきやすいのは a と o の「わたしの」。a の側に入るもの(子ども、配偶者、ペット、食べ物、道具など)のほうが少ないので、そちらを先に覚えて、残りは o と考えると整理しやすい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。