ことばKOTOBA
ことばの図鑑 — インド南西部
മലയാളം

マラヤーラム語——前から読んでも後ろから読んでも同じ名前の言語

ローマ字で書くと Malayalam。前から読んでも後ろから読んでも同じになる。インド南西の端、ケーララ州で約3,800万人が話す、母音を含まない文字を持つドラヴィダの言語である。

2026-10-24 / 言語と物語の図鑑 編集部

どこで
インド南西部
話し手
約3,800万人(インド国内 約3,480万人)
系統
ドラヴィダ語族
危機度
安全

どこで、誰が話している?

マラヤーラム語は、インド南西の端、アラビア海に面したケーララ州のことばだ。現地での名前は മലയാളം(マラヤーラム)。2011年の国勢調査では、インド国内の話し手が約3,480万人で、そのうち約3,240万人がケーララ州に住む。第二言語の話し手を合わせると、約3,800万人になる。

ケーララ州のほか、ラクシャドウィープ諸島と、プドゥチェリーのマーヘー地区でも公用語になっている。ケーララ州そのものが、1956年11月1日にマラヤーラム語を話す地域をひとつにまとめて生まれた州である。名前のもとは「山」を意味する mala と「地方」を意味する alam で、直訳すると「山の地方」になる、と説明されている。

どんな音がする?

名前をローマ字で書くと Malayalam。前から読んでも後ろから読んでも同じ並びになる、英語で有名な回文の言語名だ。ただし本当の発音では3つめの「ラー」が長く、2つめの l は舌をそらせて出す音なので、耳で聞くと回文にはならない。自分の文字 മലയാളം で書いても、もちろん左右対称にはならない。

いちばんの名物は ഴ の音。舌先を奥にそらせたまま「ル」と「ジュ」のあいだのように響かせる音で、ローマ字では zh と書かれることが多い。北部の都市コーリコード(Kozhikode)の zh がこの音で、カタカナでは書き分けられない。

どんな文字で書く?

使うのはマラヤーラム文字。子音に母音の記号をつけて1文字をつくるタイプで、古い丸い文字ヴァッテルットゥ(「丸い書き文字」の意味)と、サンスクリット語を書くためのグランタ文字から育った。いまの形を整えたのは、16世紀の詩人トゥンチャットゥ・エルッタッチャンだとされる。

おもしろいのがチッルと呼ばれる文字。ふつうの子音字には母音 a が隠れているが、チッルは母音を含まない「子音だけ」をひとりで表す。「彼」の അവൻ(アヴァン)の最後の ൻ、「彼女」の അവൾ(アヴァル)の最後の ൾ がそれだ。印刷やタイプライターに合わせて文字の形を減らす改革が、ケーララの新年にあたる1971年4月15日から始まった。

മലയാളംമ(マ)+ ല(ラ)+ യാ(ヤー)+ ളം(ラム)。最後の ം は、鼻に抜ける m の音をあらわす記号

文法のクセ

語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞。そして動詞は、時制や相では形を変えるのに、人称・性・数では変わらない。「私が来た」も「彼女が来た」も「彼らが来た」も、動詞は同じ形でいい。親戚のタミル語やテルグ語は動詞の語尾で主語を示すので、ドラヴィダ語族のなかでは目立つ特徴である。古い詩などには、主語に合わせて変わる形が残っている。

「私たち」は2つある。聞き手を含む「私たち」は നമ്മൾ(ナンマル)、聞き手を含まない「私たち」は ഞങ്ങൾ(ニャンガル)。ここは家族と同じだ。

この言語でしか言えない言葉

എഴുത്തിനിരുത്ത്
エルッティニルットゥ
意味「文字を書きはじめる儀式」。秋の祭りナヴァラートリの最終日、ヴィジャヤダシャミーの日に、子どもがはじめて文字を書く。大人が金の指輪で子どもの舌に ഹരിശ്രീ(ハリシュリー)と書き、子どもは真ちゅうの皿に盛った米の上に、指で最初の文字をなぞる。もとはヒンドゥーの習わしだが、ほかの宗教の家族も子どもを連れてくる。教会では最初の文字といっしょに聖書の一節を書かせるところもある。エルッタッチャンの生まれた地、ティルールのトゥンチャン・パランブには、この日、多くの親子が集まる。

歴史をひとことで

マラヤーラム語は、古いタミル語と同じところから分かれた言語だ。分かれ終わったのは9世紀から13世紀のあいだ、という見かたが主流である。古いマラヤーラム語で書かれた最古の記録としては、849〜850年ごろのキーロン・シリア銅板文書が挙げられる。

タミル語の伝統から離れた最初の文学作品は、12世紀末から13世紀はじめの『ラーマチャリタム』。16世紀にはエルッタッチャンが叙事詩をマラヤーラム語で書き、いまも「近代マラヤーラム語の父」と呼ばれている。

いま、この言語は

話し手が多く、危機度は「安全」。2013年にはインド政府から「古典語」に認められた。地域ごとの話し言葉の違いもあり、イスラム教徒の話し言葉では ഴ が「ヤ」の音になる、といった差も知られている。

海の外にも話し手は多い。とくにペルシア湾岸の国々に働きに出た人が多く、ドバイ、クウェート、ドーハなどにはマラヤーラム語を話す大きなコミュニティがある。文字は1991年の Unicode 1.0 から収録されていて、チッルも5.1からは独立した文字として扱われるようになった。

ことばカード

こんにちは(ていねい)
നമസ്കാരം
ナマスカーラム
ありがとう
നന്ദി
ナンニ
またね(さようなら)
പിന്നെ കാണാം
ピンネ・カーナーム
元気?
സുഖമാണോ?
スカマーノー
いいえ(ない)
ഇല്ല
イッラ
マラヤーラム語
മലയാളം
マラヤーラム
1ഒന്ന്2രണ്ട്3മൂന്ന്4നാല്5അഞ്ച്

もし学ぶなら

おすすめの入り口

まずは文字を「母音の記号×子音」の表として覚えたい。そのうえで、母音を含まないチッルの5〜6字を別に覚えておくと、単語の終わりが読めるようになる。丸い形が多いので、似た字は並べて見比べるのがいい。

文法は、動詞が主語で変わらないぶん入りやすい。「元気?」の സുഖമാണോ? のような短いあいさつから、実際の発音を耳で覚えていくと楽しい。