どこで、誰が話している?
マラヤーラム語は、インド南西の端、アラビア海に面したケーララ州のことばだ。現地での名前は മലയാളം(マラヤーラム)。2011年の国勢調査では、インド国内の話し手が約3,480万人で、そのうち約3,240万人がケーララ州に住む。第二言語の話し手を合わせると、約3,800万人になる。
ケーララ州のほか、ラクシャドウィープ諸島と、プドゥチェリーのマーヘー地区でも公用語になっている。ケーララ州そのものが、1956年11月1日にマラヤーラム語を話す地域をひとつにまとめて生まれた州である。名前のもとは「山」を意味する mala と「地方」を意味する alam で、直訳すると「山の地方」になる、と説明されている。
どんな音がする?
名前をローマ字で書くと Malayalam。前から読んでも後ろから読んでも同じ並びになる、英語で有名な回文の言語名だ。ただし本当の発音では3つめの「ラー」が長く、2つめの l は舌をそらせて出す音なので、耳で聞くと回文にはならない。自分の文字 മലയാളം で書いても、もちろん左右対称にはならない。
いちばんの名物は ഴ の音。舌先を奥にそらせたまま「ル」と「ジュ」のあいだのように響かせる音で、ローマ字では zh と書かれることが多い。北部の都市コーリコード(Kozhikode)の zh がこの音で、カタカナでは書き分けられない。
どんな文字で書く?
使うのはマラヤーラム文字。子音に母音の記号をつけて1文字をつくるタイプで、古い丸い文字ヴァッテルットゥ(「丸い書き文字」の意味)と、サンスクリット語を書くためのグランタ文字から育った。いまの形を整えたのは、16世紀の詩人トゥンチャットゥ・エルッタッチャンだとされる。
おもしろいのがチッルと呼ばれる文字。ふつうの子音字には母音 a が隠れているが、チッルは母音を含まない「子音だけ」をひとりで表す。「彼」の അവൻ(アヴァン)の最後の ൻ、「彼女」の അവൾ(アヴァル)の最後の ൾ がそれだ。印刷やタイプライターに合わせて文字の形を減らす改革が、ケーララの新年にあたる1971年4月15日から始まった。
文法のクセ
語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞。そして動詞は、時制や相では形を変えるのに、人称・性・数では変わらない。「私が来た」も「彼女が来た」も「彼らが来た」も、動詞は同じ形でいい。親戚のタミル語やテルグ語は動詞の語尾で主語を示すので、ドラヴィダ語族のなかでは目立つ特徴である。古い詩などには、主語に合わせて変わる形が残っている。
「私たち」は2つある。聞き手を含む「私たち」は നമ്മൾ(ナンマル)、聞き手を含まない「私たち」は ഞങ്ങൾ(ニャンガル)。ここは家族と同じだ。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
マラヤーラム語は、古いタミル語と同じところから分かれた言語だ。分かれ終わったのは9世紀から13世紀のあいだ、という見かたが主流である。古いマラヤーラム語で書かれた最古の記録としては、849〜850年ごろのキーロン・シリア銅板文書が挙げられる。
タミル語の伝統から離れた最初の文学作品は、12世紀末から13世紀はじめの『ラーマチャリタム』。16世紀にはエルッタッチャンが叙事詩をマラヤーラム語で書き、いまも「近代マラヤーラム語の父」と呼ばれている。
いま、この言語は
話し手が多く、危機度は「安全」。2013年にはインド政府から「古典語」に認められた。地域ごとの話し言葉の違いもあり、イスラム教徒の話し言葉では ഴ が「ヤ」の音になる、といった差も知られている。
海の外にも話し手は多い。とくにペルシア湾岸の国々に働きに出た人が多く、ドバイ、クウェート、ドーハなどにはマラヤーラム語を話す大きなコミュニティがある。文字は1991年の Unicode 1.0 から収録されていて、チッルも5.1からは独立した文字として扱われるようになった。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは文字を「母音の記号×子音」の表として覚えたい。そのうえで、母音を含まないチッルの5〜6字を別に覚えておくと、単語の終わりが読めるようになる。丸い形が多いので、似た字は並べて見比べるのがいい。
文法は、動詞が主語で変わらないぶん入りやすい。「元気?」の സുഖമാണോ? のような短いあいさつから、実際の発音を耳で覚えていくと楽しい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。