どこで、誰が話している?
モンゴル語はモンゴル国の公用語で、国内の話し手は約360万人(2014年)。だが話し手が多い場所はもうひとつある。中国の内モンゴル自治区で、ここには少なくとも約410万人のモンゴル族が暮らす。合わせると、方言をふくめて約500万〜600万人になる。
親戚にあたる言語もある。ロシアのブリヤート共和国とカルムイク共和国では、それぞれブリヤート語・カルムイク語が公的な地位を持つ。モンゴル語族は、ユーラシアの内側に細く長く伸びている。
どんな音がする?
いちばんの特徴は母音調和だ。母音が2つのグループに分かれていて、ひとつの単語の中では原則どちらか一方しか使わない。おおまかに言うと а・о・у の組と э・ө・ү の組で、и はどちらにも混ざる。語尾も、くっつく単語の組に合わせて形を変える。
母音には短い/長いの区別があり、語末の短い母音はたいてい落ちる。結果として子音が3つ続くこともあり、低くこもった響きになる。「こんにちは」の Сайн байна уу は、綴りから想像するより短く「サイン バイノー」と流れる。
どんな文字で書く?
いまのモンゴル国で日常的に使われているのはキリル文字だ。ロシア語の33字に Өө と Үү を足した全35字。この2字はモンゴル語のために用意されたものである。
もうひとつが伝統モンゴル文字(モンゴル・ビチグ)。上から下へ書き、行は左から右へ進む。縦書きの文字はほかにもあるが、行が左から右へ流れるものはきわめて珍しい。アラビア文字と同じように、同じ字でも語頭・語中・語末で形が変わる。もとをたどると古ウイグル文字にゆきつく。
文法のクセ
語順は日本語と同じ主語—目的語—動詞。前置詞ではなく後置詞を使い、語尾をつなげて意味を足す膠着語なので、日本語話者には骨格がつかみやすい。格は数え方によって7つから9つ。
文法上の性はない。「彼」と「彼女」を言い分ける必要がなく、名詞に男性・女性の札がつくこともない。そのかわり丁寧さの区別ははっきりしていて、相手をどう呼ぶかで文の温度が変わる。
この言語でしか言えない言葉
遊牧のまわりに、ことばが濃く積もっている。馬の特徴を表す語は500を超え、毛色と模様を言い分ける語だけで約250あるという。
歴史をひとことで
文字の始まりは13世紀のはじめ。チンギス・ハーンが捕らえたウイグル人の書記タタトンガが、古ウイグル文字をモンゴル語に合わせて整えたと伝えられる。1204年ごろのことだ。以後この文字は、約740年にわたって書きことばを担った。
現存する最古のモンゴル語の書物が『モンゴル秘史』。チンギス・ハーンの一代記で、成立は13世紀なかばとされるが、1228年・1240年・1252年と説が分かれている。
転機は20世紀。社会主義体制のもとでキリル文字が導入され、1941年に採用が決まり、1946年1月1日から正式な表記になった。伝統文字は学校の教科からも外れ、看板や書道など、儀礼的な場所に残るだけになった。
いま、この言語は
モンゴル国での危機度は「安全」。行政も教育も出版もこの言語で回っていて、話題は残存よりどの文字で書くかのほうにある。
2020年3月、政府は伝統文字の使用を広げる方針を打ち出した。そして2025年1月2日から、国と地方の公文書でキリル文字と伝統文字を併記する運用が始まった。身分証や出生証明書、卒業証書などに、縦書きの文字が並ぶようになったわけである。2030年までの全面復帰が目標とされているが、キリル文字も当面は使われ続ける。
いっぽう内モンゴル自治区では、2020年から一部の教科の授業が中国語に切り替えられ、2023年9月には全教科が中国語になったと報じられた。同じ言語でも、国境の内と外で置かれ方はかなり違う。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
入り口はキリル文字35字。ロシア語をかじったことがあれば半分は済んでいて、残るのは Ө と Ү、それに母音調和の感覚だ。この2つを先に押さえると、語尾が単語ごとに形を変える理由がつながる。
語順が日本語と同じなので、単語を置く順番で迷うことは少ない。生の音にふれるならモンゴル国営放送 MNB のニュース、読むほうは国営通信社 MONTSAME の日本語版が入りやすい。
伝統モンゴル文字は、キリル文字とは別に覚えることになる。綴りが一対一で対応しない語もあるので、「別表記」というより、もうひとつの書きことばとして向き合ったほうが早い。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。