どこで、誰が話している?
マルタ語は、シチリア島の南に浮かぶ島国マルタの国語である。話し手は約53万〜57万人で、そのうち約45万人がマルタ国内、約8万人がオーストラリアなど国の外に住む人びとだ。オーストラリアのビクトリア州では、少数言語として認められている。
マルタでは英語も公用語で、多くの人が2つの言語を行き来しながら暮らしている。2004年5月1日にマルタがEUに加わってからは、EUの公用語のひとつにもなった。EUの公用語のなかで、セム語派の言語はマルタ語だけである。
どんな音がする?
耳にすると、まずイタリア語のような明るい響きが聞こえてくる。「おはよう」は bonġu(ボンジュ)、「ありがとう」は grazzi(グラッツィ)。ところが単語によっては、のどの奥でこする ħ の音が混じる。これはアラビア語と同じ、のどの奥で息をこすらせる音で、「命」の ħajja や「バジル」の ħabaq に出てくる。
どんな文字で書く?
アラビア語の親戚でありながら、マルタ語はラテン文字で書く。セム語派の言語で、ラテン文字を正式な文字にしているのはマルタ語だけだ。アルファベットは30文字で、母音が6つ、子音が24。c と y は使わない。
そのかわりに、点のついた ċ・ġ・ż、横棒のついた ħ、そして2文字でひとつと数える għ と ie がある。h はふつう読まない。いまの書き方の決まりができたのは1924年のことである。
文法のクセ
見た目はヨーロッパ風でも、文法の仕組みはセム語のものだ。単語の芯には3つの子音でできた語根があり、そのあいだに母音をはさんで単語を作る。たとえば「太陽」の xemx は、x-m-x という語根からできている。
複数形も変わっている。語尾をつけるのではなく、単語の中の母音を入れかえて作る「壊れた複数」(plural miksur)がある。「男」の raġel は、複数になると irġiel になる。冠詞は il- で、つづく子音によって形が変わるのもアラビア語と同じだ。
一方で、単語の出どころを数えると、ある調査では約52%がイタリア語・シチリア語、約32%がアラビア語系、約10%がフランス語、約6%が英語だった。骨組みはセム語、肉づけはロマンス語。この組み合わせが、マルタ語の個性である。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
マルタ語の祖先は、中世の終わりにシチリア島とマルタで話されていたシチリア・アラビア語である。1090年にノルマン人が島を征服してからは、北アフリカのアラビア語圏と切り離され、イタリア語やシチリア語のことばを取りこみながら、独自の道を歩きはじめた。
いま知られているいちばん古い文学作品は、ピエトル・カシャーロの詩『イル・カンティレーナ』。1485年より前、おそらく1470年代に作られた嘆きの詩で、1966年に公証人の記録の中から見つかった。長いあいだ島の公用語はイタリア語だったが、1934年にマルタ語が英語とともに公用語として認められ、イタリア語はその座をおりた。
いま、この言語は
国語として、議会・学校・テレビ・新聞で使われており、言語としては安定している。2022年の国の統計では、住民の約90%がマルタ語を少なくとも基本的に使えると答えた。英語と混ぜて話す人も多く、会話の途中で言語を切りかえるのはごく日常の風景である。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
ラテン文字なので、ħ・għ・ċ・ġ・ż の読み方を覚えれば、すぐに声に出して読める。まずは Bonġu(おはよう)と Grazzi(ありがとう)から。イタリア語を知っている人は、見覚えのある単語にたくさん出会うはずだ。
文法に進むと、語根と「壊れた複数」が待っている。ここはアラビア語やヘブライ語と同じ考え方なので、セム語の入り口としても面白い。ひとつの言語で、ヨーロッパと北アフリカの両方の手ざわりを味わえる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。