どこで、誰が話している?
ネパール語は、ヒマラヤの国ネパールの公用語だ。現地での名前は नेपाली(ネパーリ)。2021年の国勢調査では、国民の約45%がこの言語を母語としている。国内には120以上の母語があり、ちがう言語を話す人どうしをつなぐ共通語として、母語でない人も広く使っている。
話し手は母語で約1,900万人、第二言語として使う人を合わせると約3,200万人になる。インドでもシッキム州の公用語で、1992年にはインド憲法の第8付則に載る言語のひとつになった。ブータンやミャンマーにも話し手がいて、グルカ兵の移住などで海外にも広がり、オーストラリアのタスマニア州では3番目に多く話される言語になっている。
どんな音がする?
母音はふつうの母音が6つ、鼻に抜ける鼻母音が5つある。子音では、息を強く出す音と、息まじりのにごった音を区別する。「カ」と「カハ」、「ガ」と「ガハ」のちがいで別の単語になるのだ。舌先を上あごのほうへ引いて出す音もある。
サンスクリット語から来た単語も多いが、発音はネパール語らしく変わる。「ありがとう」の धन्यवाद は、ヒンディー語では「ダンニャワード」に近いが、ネパール語では v が b の音になり、「ダンニャバード」と聞こえる。
どんな文字で書く?
使うのはデーヴァナーガリー文字。ヒンディー語やサンスクリット語と同じ文字で、ネパールの憲法がこの文字で書くことを定めている。文字の上に横線を引き、その線から字をぶら下げるように書くのが見た目の特徴だ。
数字にも独自の形があり、१ २ ३ と書く。子音の字には「ア」の音がふくまれていて、ほかの母音は記号を前後や上下にくっつけてあらわす。
文法のクセ
語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞。名詞のうしろに部品をつけて「〜で」「〜に」をあらわすので、文の組み立て方は日本語に近い。
いちばんのクセは「あなた」の言い分けだ。親しい相手や年下には तँ(タン)、ふつうの相手には तिमी(ティミ)、目上には तपाईं(タパーイン)、さらに敬うときは हजुर(ハジュル)。これに王族にだけ使う「マウスプ」が加わる。どの「あなた」を選ぶかで、うしろの動詞の形も変わる。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ネパール語のふるさとは、ネパール西部カルナーリ地方のシンジャ谷だ。10〜14世紀ごろ、ここを中心にカス人の王国があった。いまわかっている最古の碑文は、ダイレク郡ドゥッルにある981年ごろのものとされる。もとの名前は「カス・クラ」、つまり「カスの人のことば」だった。
18世紀にプリトビ・ナラヤン・シャハが国をまとめると、「ゴルカのことば」と呼ばれるようになる。19世紀には詩人バヌバクタ・アチャリャ(1814年生まれ)が、インドの叙事詩『ラーマーヤナ』をサンスクリット語からネパール語に初めて訳した。「最初の詩人」とたたえられ、誕生日の7月13日ごろには「バヌ・ジャヤンティ」が祝われる。「ネパール語」という名前を政府が正式に使い始めたのは1933年である。
いま、この言語は
国の公用語で、行政や学校教育の中心にあり、危機度は「安全」。言葉の決まりは国立のネパール・アカデミーが整えている。
一方で、ネパール語が広まるほど、国内のほかの母語が使われにくくなるという面もある。母語でネパール語を話す人の割合は、1981年の約58%から2021年の約45%へ下がった。共通語としてのネパール語と、120以上の母語がどう共に生きるかが、いまの国の課題になっている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずはデーヴァナーガリー文字を覚えるといい。ヒンディー語やサンスクリット語と同じ文字なので、一度覚えれば南アジアのほかの言語の入り口にもなる。数字も १ २ ३ の独自の形なので、いっしょに覚えておくと値段や番地が読めるようになる。
話すときは「あなた」の段をまちがえないことが大事だ。最初は目上にも使える तपाईं(タパーイン)で通すと失礼になりにくい。語順は日本語と同じなので、単語を日本語の順に並べていけば、文の形には早くなじめるはずだ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。