どこで、誰が話している?
オランダ語は、オランダと、ベルギー北部のフランデレン地方で話されている。ベルギーでは北半分がオランダ語、南半分がフランス語という国の分かれ方をしている。海を渡った南米のスリナム、カリブ海のアルバ、キュラソー、シント・マールテンでも公用語だ。
母語として話す人は約2,500万人、第二言語として使う人が約500万人いる。南アフリカのアフリカーンス語は、17世紀に移り住んだ人々のオランダ語から枝分かれした「娘」の言語で、いまでもある程度は互いに通じる。
どんな音がする?
いちばん耳に残るのは g の音だ。英語やドイツ語の「グ」ではなく、喉の奥をこするように息を通す「ハ」に近い摩擦音になる。北部ではかすれが強く、ベルギーやオランダ南部ではやわらかく響く。「かたい g」「やわらかい g」と呼び分けるほどで、話し手の出身地がこの一音でわかる。
だから、画家 Van Gogh の名前は、オランダ語では「ファン・ゴッホ」の「ゴ」も「ホ」も、喉をこする音で発音される。日本語の「ゴッホ」は、英語の読みとも現地の音とも少しずつ違う、あいだの形だ。
どんな文字で書く?
文字はラテン文字だ。ほとんど英語と同じ26字で書けるが、ひとつ変わった綴りがある。ij という2文字の組み合わせで、「エイ」に近い音を表す。この ij は、まるで1文字のようにふるまう。
たとえば、アムステルダムの北にある湖は IJsselmeer(アイセル湖)と書く。文の先頭や固有名詞で大文字にするとき、I だけでなく J まで大文字にする。Ijsselmeer と書くと、オランダ語では誤りになる。
文法のクセ
オランダ語の文は、ドイツ語と同じく動詞を2番目に置く。「今日、私は本を読む」は「今日・読む・私は・本を」の順になる。ところが「〜ということ」「〜なので」でつながる従属の文になると、動詞は文の最後へ移る。ここだけ、日本語と同じ語順になる。
名詞には de と het の2種類の「the」がある。どちらがつくかは単語ごとに覚えるしかない。ただ、語尾に -je をつけて「小さな〜」にすると、どの名詞も必ず het になる。この縮小形はとてもよく使われ、「ビールを1杯」も「ちょっと散歩」も、つい小さくして言う。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
オランダ語は、英語やドイツ語と同じ西ゲルマン語から育った。英語とドイツ語のあいだにあると言われるのには、はっきりした理由がある。ドイツ語は中世のはじめごろまでに、p・t・k の音が pf・ts・ch などに変わる大きな音の変化(高地ドイツ語子音推移)を経験した。英語とオランダ語はこの変化を受けなかった。だから「りんご」は英語 apple、オランダ語 appel、ドイツ語 Apfel。「作る」は make、maken、machen。単語はドイツ語に似ているのに、音は英語に近い、という場面がよくある。
書き言葉の土台になったのは、1637年に完成した聖書の翻訳『国家訳聖書』だ。各地の方言を持ち寄ったこの聖書が広く読まれ、共通のオランダ語ができていった。
日本とのつながりも深い。1640年代に長崎の出島へ移ったオランダ人は、1854年まで日本と交易を続けた唯一の西洋の国だった。「蘭学」を通じて、ビール(bier)、ガラス(glas)、ランドセル(ransel、背負い袋)など、150を超える語がいまも日本語で使われている。英語にも yacht(jacht)、cookie(koekje)、boss(baas)が入り、サンタクロースの名前もシンタクラースから来ている。
いま、この言語は
危機度は安全。1980年、オランダとベルギーは条約を結んでオランダ語連合をつくり、綴りや教育の方針を国をまたいで一緒に決めるようにした。のちにスリナムも加わっている。国は違っても、書き方はひとつにそろえる仕組みだ。
一方で、オランダは英語が非常によく通じる国でもある。大学の授業が英語で行われることも多く、「オランダ語を学びに来たのに、みんな英語で返してくる」というのは留学生のよくある悩みになっている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
英語を知っていれば、単語の見当がつくことが多い。water、warm、appel、boek(本)。まずは英語と似ている単語を集めて、音だけオランダ語に置き換えるところから始めるといい。
次に g の音と ij の綴りに慣れること。そして名詞は de か het かをセットで覚える。迷ったら -je をつけて小さくすれば、とりあえず het で済む。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。