どこで、誰が話している?
ナバホ語は、アメリカ南西部で話されている。アリゾナ、ニューメキシコ、ユタの3州にまたがるナバホ・ネーションが中心で、コロラドにも話し手がいる。自分たちの呼び名は Diné bizaad(ディネ・ビザード)。「ディネ(人々)のことば」という意味だ。
話し手は約17万人。アメリカの先住民の言語のなかで、もっとも多くの人に話されている言語のひとつである。2024年12月には、ナバホ・ネーションの議会が法律を改め、ナバホ語をナバホ・ネーションの公用語と定めた。
どんな音がする?
母音は a・e・i・o の4つだけ。そのかわりに、長いか短いか、鼻にかかるかどうか、そして声が高いか低いかで区別する。声の高さで意味が変わる、声調のある言語だ。
目立つ子音は ł。舌を上の歯ぐきにつけたまま、舌の横から息だけを強く出す音で、日本語にはない。喉で息を止める音も多く、「ありがとう」の Ahéheeʼ は、カタカナにすると「アヘヘッ」に近く、最後で息がぷつりと切れる。
どんな文字で書く?
書くのはラテン文字。いまの綴り方は、1930年代後半に言語学者のロバート・ヤングとナバホのウィリアム・モーガンがまとめたものが基本になっている。
見慣れたアルファベットに、いくつか記号が加わる。声の高さは á のようなアクセント記号、鼻にかかる母音は字の下の小さなしっぽ ą(オゴネク)、喉で止める音は ʼ。横棒を引いた ł は、あの息の音を表す。
文法のクセ
語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞。ただし主役はとにかく動詞で、ひとつの動詞にたくさんの部品がつながり、それだけで「誰が・何を・どんなふうに」まで表してしまう。
おもしろいのは、物を「渡す」「持つ」ときの動詞が、その物の形や性質で変わること。丸くて硬いもの(ボトル、ボール)、細くて硬いもの(矢、フライパン)、細くてやわらかいもの(ロープ、靴下)、平たくてやわらかいもの(毛布、コート)、どろっとしたもの(泥、アイスクリーム)、生きているもの――と、11ほどの種類に分かれている。「それ取って」と言うたびに、相手に物の形も伝えていることになる。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ナバホ語はアサバスカ諸語のひとつで、親戚の言語はアラスカやカナダ西部にも広がっている。祖先は北から移ってきて、遅くとも1500年ごろまでにはアメリカ南西部に暮らしていたと考えられている。
20世紀、子どもたちは寄宿学校で英語を強いられ、ナバホ語を話すと罰を受けた。ところが同じころ、この言語が国を助けることになる。1942年、29人のナバホの若者が海兵隊に入り、ナバホ語をもとにした暗号をつくった。戦争のあいだに数百人のコードトーカーが太平洋の戦場で通信を担い、暗号は最後まで解読されなかった。潜水艦は béésh łóóʼ、「鉄の魚」と呼ばれた。暗号は1968年まで機密とされ、2001年に最初の暗号兵たちへ議会名誉黄金勲章が贈られた。
いま、この言語は
ユネスコの分類では、危機言語のなかでもっとも軽い「脆弱」。話し手はまだ多いが、若い世代ほど英語を使うようになっている。
取り戻す動きも続いている。1984年にはナバホ・ネーションの議会が、すべての学年でナバホ語を学べるようにすると決めた。2013年には映画『スター・ウォーズ』がナバホ語に吹き替えられ、先住民の言語に訳された初めての大作映画になった。2018年にはDuolingoにもナバホ語のコースができている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは記号の読み方から。アクセント記号は「高い声」、字の下のしっぽは「鼻にかける」、ʼ は「息を止める」。この3つがわかると、見慣れない綴りが一気に音として読めるようになる。ł の音は、「ス」と「シ」のあいだで舌の横から息を出すつもりで練習するといい。
入り口としては Duolingo のナバホ語コースがある。慣れてきたら、物を渡す動詞が形でどう変わるかを、身の回りの物で試してみたい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。