ことばの図鑑 — アメリカ南西部
Diné bizaad

ナバホ語——解読されなかった暗号

母音は4つ。そのかわり、声の高さと長さと鼻にかかるかどうかで言葉を分ける。第二次世界大戦では、この言語をもとにした暗号が最後まで解読されなかった。

2026-09-15 / 言語図鑑 編集部

どこで
アメリカ南西部
話し手
約17万人
系統
ナ・デネ語族
危機度
脆弱

どこで、誰が話している?

ナバホ語は、アメリカ南西部で話されている。アリゾナ、ニューメキシコ、ユタの3州にまたがるナバホ・ネーションが中心で、コロラドにも話し手がいる。自分たちの呼び名は Diné bizaad(ディネ・ビザード)。「ディネ(人々)のことば」という意味だ。

話し手は約17万人。アメリカの先住民の言語のなかで、もっとも多くの人に話されている言語のひとつである。2024年12月には、ナバホ・ネーションの議会が法律を改め、ナバホ語をナバホ・ネーションの公用語と定めた。

どんな音がする?

母音は a・e・i・o の4つだけ。そのかわりに、長いか短いか鼻にかかるかどうか、そして声が高いか低いかで区別する。声の高さで意味が変わる、声調のある言語だ。

目立つ子音は ł。舌を上の歯ぐきにつけたまま、舌の横から息だけを強く出す音で、日本語にはない。喉で息を止める音も多く、「ありがとう」の Ahéheeʼ は、カタカナにすると「アヘヘッ」に近く、最後で息がぷつりと切れる。

どんな文字で書く?

書くのはラテン文字。いまの綴り方は、1930年代後半に言語学者のロバート・ヤングとナバホのウィリアム・モーガンがまとめたものが基本になっている。

見慣れたアルファベットに、いくつか記号が加わる。声の高さは á のようなアクセント記号、鼻にかかる母音は字の下の小さなしっぽ ą(オゴネク)、喉で止める音は ʼ。横棒を引いた ł は、あの息の音を表す。

dį́į́ʼ「4」。高い声で、鼻にかけて、長くのばし、最後に息を止める

文法のクセ

語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞。ただし主役はとにかく動詞で、ひとつの動詞にたくさんの部品がつながり、それだけで「誰が・何を・どんなふうに」まで表してしまう。

おもしろいのは、物を「渡す」「持つ」ときの動詞が、その物の形や性質で変わること。丸くて硬いもの(ボトル、ボール)、細くて硬いもの(矢、フライパン)、細くてやわらかいもの(ロープ、靴下)、平たくてやわらかいもの(毛布、コート)、どろっとしたもの(泥、アイスクリーム)、生きているもの――と、11ほどの種類に分かれている。「それ取って」と言うたびに、相手に物の形も伝えていることになる。

この言語でしか言えない言葉

hózhó
ホジョ
意味美しさ・調和・釣り合い・平和をひとつにしたような言葉。ものごとがあるべき形に整い、人がまわりの世界とひとつになっている状態を指す。状態だけでなく、そこへ向かって生きていく道のりまで含むとされ、ひとつの訳語に置きかえるのが難しい。「美しさのなかを歩く」という言い方で紹介されることが多い。

歴史をひとことで

ナバホ語はアサバスカ諸語のひとつで、親戚の言語はアラスカやカナダ西部にも広がっている。祖先は北から移ってきて、遅くとも1500年ごろまでにはアメリカ南西部に暮らしていたと考えられている。

20世紀、子どもたちは寄宿学校で英語を強いられ、ナバホ語を話すと罰を受けた。ところが同じころ、この言語が国を助けることになる。1942年、29人のナバホの若者が海兵隊に入り、ナバホ語をもとにした暗号をつくった。戦争のあいだに数百人のコードトーカーが太平洋の戦場で通信を担い、暗号は最後まで解読されなかった。潜水艦は béésh łóóʼ、「鉄の魚」と呼ばれた。暗号は1968年まで機密とされ、2001年に最初の暗号兵たちへ議会名誉黄金勲章が贈られた。

béésh łóóʼ「鉄の魚」=潜水艦。ナバホ語の暗号で使われた言葉

いま、この言語は

ユネスコの分類では、危機言語のなかでもっとも軽い「脆弱」。話し手はまだ多いが、若い世代ほど英語を使うようになっている。

取り戻す動きも続いている。1984年にはナバホ・ネーションの議会が、すべての学年でナバホ語を学べるようにすると決めた。2013年には映画『スター・ウォーズ』がナバホ語に吹き替えられ、先住民の言語に訳された初めての大作映画になった。2018年にはDuolingoにもナバホ語のコースができている。

ことばカード

こんにちは
Yáʼátʼééh
ヤアテェ
ありがとう
Ahéheeʼ
アヘヘッ
はい
Aooʼ
アオッ
いいえ
Dooda
ドーダ
ナバホ語
Diné bizaad
ディネ・ビザード
1łáaʼii2naaki3tááʼ4dį́į́ʼ5ashdlaʼ

もし学ぶなら

おすすめの入り口

まずは記号の読み方から。アクセント記号は「高い声」、字の下のしっぽは「鼻にかける」、ʼ は「息を止める」。この3つがわかると、見慣れない綴りが一気に音として読めるようになる。ł の音は、「ス」と「シ」のあいだで舌の横から息を出すつもりで練習するといい。

入り口としては Duolingo のナバホ語コースがある。慣れてきたら、物を渡す動詞が形でどう変わるかを、身の回りの物で試してみたい。