ことばKOTOBA
ことばの図鑑 — 沖縄本島
ウチナーグチ

沖縄語——「方言」と呼ばれてきた、別の言語

日本語と同じ祖先を持ちながら、会話はなかなか通じない。琉球王国の都で使われ、長く「方言」と呼ばれてきたことばは、2009年に「言語」として危機言語の一覧に載った。

2026-09-27 / 言語と物語の図鑑 編集部

どこで
沖縄本島
話し手
高齢層が中心(「主に使う」県民 約3%・2025年県調査)
系統
日琉語族 琉球語派
危機度
危険

どこで、誰が話している?

沖縄語は、沖縄本島の中部と南部、そして周りの島々で話されてきたことばだ。地元では「ウチナーグチ」(沖縄の口=ことば)と呼ばれる。本島北部は国頭語(くにがみご)、宮古・八重山・与那国にはそれぞれ別の言語があり、奄美語も含めて琉球諸語というひとつのグループをつくっている。

長いあいだ「沖縄方言」と呼ばれてきた。けれど2009年、ユネスコは日本の消滅危機言語として8つを挙げ、そのなかに沖縄語を独立した言語として数えた。日本語とは同じ祖先から分かれた兄弟のような関係で、単語の約7割は日本語と語源が共通するとされる。それでも、標準語しか知らない人が会話を聞いて理解するのは難しい。

話し手の数は、数え方によって大きく変わる。県内の人口を含めて約100万人とする資料もあれば、母語として話す人を約10万人とする推計もある。確かなのは、日常的に話す人の多くが高齢の世代だということだ。

どんな音がする?

日本語と見比べると、決まった音の置き換えがある。日本語のオ段は u に、エ段は i になりやすい。「心(こころ)」はククル、「肝(きも)」はチム。「沖縄」が「ウチナー」になるのも、キがチに変わる同じ流れの一部だ。

もうひとつの特徴は、のどを一瞬閉じる声門閉鎖音だ。母音で始まる単語の多くは、この小さな「詰まり」をつけて発音する。日本語にはない区別で、あるなしで意味が変わる単語もある。

どんな文字で書く?

沖縄語は、日本語と同じかなと漢字で書かれてきた。1501年に建てられた王家の墓・玉陵(たまうどぅん)の碑には、ひらがなと漢字を交ぜた文がすでに刻まれている。

いちばん大切な記録は、王府がまとめた歌謡集『おもろさうし』だ。1531年から1623年にかけて3回に分けて編まれ、全22巻・1,554首。ほとんどがひらがなで書かれ、祭りの歌や航海、王をたたえる歌が並ぶ。

ただ、日本語のかなだけでは沖縄語の音をうまく書き分けられない。「てぃ」「とぅ」のような小書きを使い、書き方もいくつかの流儀がある。沖縄県は2022年に表記の目安をまとめている。

行逢りば兄弟「いちゃりばちょーでー」。一度会えば、みな兄弟

文法のクセ

語順は日本語と同じく主語・目的語・動詞で、助詞もある。日本語の話し手には入りやすい骨組みだ。そのかわり、動詞の形や語尾は大きく違い、骨組みが似ているぶん、中身の違いに驚かされる。

あいさつが話し手の性別で変わるのもおもしろい。「こんにちは」は、男性ならはいさい、女性ならはいたいと言う。

数え方にも古い形が残っている。1から5はてぃーち・たーち・みーち・ゆーち・いちち。日本語の「ひとつ・ふたつ」にあたる数え方で、ものの種類を問わずに使える。

この言語でしか言えない言葉

肝苦りさ
ちむぐりさ
意味相手の悲しみや痛みを、自分の胸の痛みとして感じること。「かわいそう」とは違い、外から同情するのではなく、「あなたが悲しいと、私も悲しい」と同じ高さで一緒に苦しむ気持ちを表す。肝(ちむ)は心のこと。
行逢りば兄弟
いちゃりばちょーでー
意味「行き逢えば兄弟」。一度出会ったら、もう兄弟のようなものという言いまわし。初めて会った人とも家族のように付き合おう、という沖縄の人づきあいの感覚がこもっている。

歴史をひとことで

沖縄語は、琉球王国の都・首里で使われた王府のことばだった。とくに尚真王の時代(1477〜1526年)には、王国の公のことばとして使われた。

1609年に薩摩藩が琉球に侵攻すると、公文書には漢字が多く求められるようになる。そして1879年、琉球は日本に組み込まれて沖縄県となり、学校では日本語で教えることになった。学校で沖縄のことばを話した子どもは、木の札を首にかけられた。方言札と呼ばれ、外すには、ほかに方言を話す子を見つけて渡すしかなかった。こうして、ことばは家庭の外から少しずつ消えていった。

いま、この言語は

ユネスコの分類では、沖縄語は「危険」な状態にある。沖縄県が2025年に行った調査では、しまくとぅば(県内の島々のことばの総称)を「主に使う」と答えた人は約3%、「挨拶程度」まで含めても約4割だった。一方で、聞いて「ある程度わかる」までを合わせると約7割。わかるけれど、話さない世代が広がっている。

県は2006年に条例で9月18日を「しまくとぅばの日」と定めた。く(9)・とぅ(10)・ば(8)の語呂合わせだ。県は小中学生向けの『しまくとぅば読本』もつくり、地域ごとのことばを学べるようにしている。

ことばカード

こんにちは(男性)
はいさい
haisai
こんにちは(女性)
はいたい
haitai
ありがとう
にふぇーでーびる
nifee deebiru
いらっしゃい
めんそーれ
mensoore
はい
うー
uu
1てぃーち2たーち3みーち4ゆーち5いちち

もし学ぶなら

おすすめの入り口

まずは沖縄県が公開している『しまくとぅば読本』。那覇・名護・宮古・石垣・与那国のことばが並んでいて、同じ県のなかでもことばがどれほど違うかがわかる。

次は「はいさい/はいたい」と「にふぇーでーびる」を口にしてみること。日本語の o を u に、e を i に置き換えるルールを覚えると、知らない単語でも元の日本語が透けて見えてくる。