どこで、誰が話している?
パンジャーブ語は、インドとパキスタンにまたがるパンジャーブ地方のことばだ。地名はペルシア語で「5つの川」を意味する。ジェルム、チェナーブ、ラーヴィー、ビアース、サトレジ。インダス川に流れこむ5本の川の流域だ。
母語話者は全体で約1億5,000万人。そのうち多くはパキスタン側にいて、2023年の国勢調査では母語話者が約8,900万人、人口の約37%と、国内でいちばん多い母語になっている。インド側では2011年の国勢調査で約3,100万人。インドのパンジャーブ州では公用語だ。国の外にも広がり、カナダでは約67万人(2021年)が母語として話す。
どんな音がする?
インド・アーリア系の言語にはめずらしく、声の高さで単語を分ける。たとえば kar(する)は平らに言うが、ghar(家)は声が下がる。文字では gh と書くのに、実際には「ガ」の息の音はほとんど聞こえず、「カル」を下がり調子で言うのに近い。
理由は歴史にある。むかしの「息まじりの濁った子音」(bh・dh・gh など)や h の音が弱まったとき、その名残が声の上がり下がりとして残った。ただし声調がつくのは単語全体の約4分の1ほどで、残りは平らに読む。
どんな文字で書く?
ここがこの言語のいちばんの特徴だ。インド側ではグルムキー文字、パキスタン側ではシャームキー文字で書く。話していることばはほとんど同じなのに、国境を越えると文字が変わる。
グルムキーは左から右へ書く。基本の字は35あり、5つずつ7段に並ぶ。だから字母表そのものをpaintī(35)と呼ぶ。シク教の伝承では、2代目グル・アンガド(1504〜1552年)が16世紀に整えたとされ、名前は「グルに導かれる人びとの文字」という意味に解されることが多い。いっぽうシャームキーはペルシア・アラビア文字をもとにした文字で、右から左へ書く。同じ「パンジャーブ語」という語も、こう変わる。
文法のクセ
語順は日本語と同じ「主語・目的語・動詞」。前置詞ではなく、名詞のうしろに置く後置詞を使う。
日本語と違うのは、名詞に男性と女性の2つの性があること。動詞も話し手の性に合わせて形を変えるので、「〜できる」は男性なら sakdā、女性なら sakdī になる。もうひとつおもしろいのが ਕੱਲ੍ਹ(kall'h)という語で、これひとつで「きのう」も「あした」も表す。どちらの意味かは、文の時制で決まる。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
最初の大詩人とされるのは、12〜13世紀のスーフィー(イスラーム神秘主義者)ババ・ファリード(1179〜1266年)だ。15世紀にシク教が生まれると、聖典の多くがグルムキー文字で書かれ、この文字は信仰と結びついて広がった。18世紀にはワーリス・シャーの恋物語詩『ヒールとラーンジャー』が書かれ、いまも愛誦されている。
大きな転機は1947年だ。インドとパキスタンの分離独立で、パンジャーブ地方は国境で二つに分けられた。パキスタン側は公用語に英語とウルドゥー語を選び、インド側では言語にもとづく州づくりを求める運動が続いて、1966年にパンジャーブ語を話す地域を中心とした州が生まれた。1968年4月には、州の公式の文字としてグルムキーが採用されている。
いま、この言語は
危機度は「安全」。話し手の数では世界でも上位に入る大言語だ。ただ、ふたつの国で立場は大きく違う。インドのパンジャーブ州では行政や学校の言語だが、パキスタンでは最大の母語でありながら、学校や役所の中心はウルドゥー語と英語で、パンジャーブ語の公的な地位は名目的なものにとどまる。
国の外でも話し手は多い。カナダ、イギリス、アメリカ、オーストラリアにそれぞれ数十万人規模の話し手がいる。読み書きは国境で分かれても、話せば同じことばとして通じる。
ことばカード
サット・スリー・アカールはもとはシク教の勝利の唱えことばで、「真理なる、時を超えた方」という意味。いまは会うときにも別れるときにも使う挨拶になっている。パキスタン側では、ありがとうは「シュクリヤ」と言うことが多い。
もし学ぶなら
おすすめの入り口
ミシガン州立大学が無料で公開しているオンライン教科書 Basic Punjabi は、グルムキー文字の読み方から日常表現まで順に進められる。まずは35字の表を、5字ずつ7段のまま声に出して覚えるのが近道だ。
文字に慣れたら、好きなパンジャービー・ポップの歌詞を見ながら聴いてみるといい。gh や bh が出てきたら、息の音ではなく声の高さに耳をすます。そこがこの言語らしさのいちばん聞こえる場所だ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。