どこで、誰が話している?
ポルトガル語は、ヨーロッパの西の端ポルトガルで生まれ、いまは4つの大陸で話されている言語だ。公用語にしているのはポルトガル、ブラジル、アンゴラ、モザンビーク、カーボベルデ、ギニアビサウ、サントメ・プリンシペ、東ティモール、赤道ギニアの9か国。中国のマカオでも公用語のひとつになっている。
話し手は母語と第二言語をあわせて約2億6,700万人。そのうち圧倒的に多いのがブラジルで、母語話者は約2億300万人、国民の約95%にあたる。「ポルトガル語」と聞いてリスボンを思い浮かべる人は多いけれど、話し手の大半は南米にいるのである。
どんな音がする?
いちばんの特徴は鼻に抜ける母音。パンを意味する pão は、「パウン」の「ウン」を口ではなく鼻に響かせるように言う。「ン」で終わるというより、母音そのものが鼻にかかるのだ。
国によって響きがかなり違うのもおもしろい。ブラジルでは i の前の t と d が「チ」「ジ」に近くなり、牛乳の leite は「レイチ」と聞こえる。ポルトガルでは弱い母音がほとんど消え、語末の s は「シュ」になるので、同じ単語でも別の言語のように聞こえることがある。
どんな文字で書く?
文字はラテン文字。特徴は、鼻母音を示すティル(〜)がついた ã と õ、そして s の音を表す ç だ。k・w・y は外来語にしか使われず、長いあいだ正式なアルファベットにも入っていなかった。
1990年、ポルトガル語を公用語にする国々は正書法協定に署名し、つづりをそろえることにした。k・w・y が正式に加わって26文字になり、ポルトガル式の acção(行動)はブラジル式と同じ ação になった。ブラジルは2009年、ポルトガルは2012年から公文書で新しいつづりを使っている。
文法のクセ
「ありがとう」の obrigado は、もとはラテン語 obligatus(恩を受けた、義理がある)から来た形容詞。だから言う人の性別に合わせて形が変わり、男性は obrigado、女性は obrigada と言う。「私はあなたに恩を感じている」と自分のことを言っているので、相手ではなく自分に合わせるのだ。実際には女性が obrigado と言うことも多い。
もうひとつは人称不定詞。ふつう不定詞(「〜すること」)は主語で形を変えないが、ポルトガル語では「私たちが〜すること」「彼らが〜すること」のように、不定詞にも主語の語尾がつく。ロマンス語のなかでもめずらしい特徴である。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ポルトガル語のもとは、ローマ帝国がイベリア半島に持ちこんだラテン語だ。9世紀から14世紀ごろまで、いまのスペイン北西部ガリシアと合わせてガリシア・ポルトガル語というひとつの言語だった。1214年のアフォンソ2世の遺言書は、全体がポルトガル語で書かれた最初期の日付入り文書とされる。
15世紀からの大航海時代に、言語は船に乗って世界へ出た。1543年、ポルトガル人を乗せた船が種子島に流れ着き、日本との交流が始まる。1639年に江戸幕府がポルトガル船の来航を禁じるまでのあいだに、パン(pão)、カルタ(carta)、ボタン(botão)、タバコ(tabaco)、雨合羽のカッパ(capa)といった言葉が日本語に入った。いまも毎日使っている言葉の中に、ポルトガル語が混じっているのである。
いま、この言語は
話し手は多く、危機の心配はない。9つの独立国は「ポルトガル語諸国共同体(CPLP)」をつくり、言語でつながる国の集まりとして協力している。
日本とのつながりも続いている。1990年、日系3世までが日本で働けるようになり、多くの日系ブラジル人がやってきた。愛知・静岡・群馬には大きなコミュニティがあり、群馬県大泉町では住民の最大約15%がポルトガル語を母語にするともいわれる。ブラジル人学校やポルトガル語の新聞もある。400年前に言葉を運んできた言語が、いまは隣人の言語になっている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
最初に決めたいのは、ブラジルとポルトガルのどちらの発音で始めるか。教材も音楽も多いのはブラジル式で、ボサノヴァやサンバの歌詞は、ゆっくりした発音を耳で覚えるのにちょうどいい。ポルトガル式に興味があるなら、ファドから入る手もある。
文字はほぼ読めるので、つまずくのは鼻母音。pão・não・mãe(母)を、鼻に響かせて言う練習から始めたい。スペイン語を知っている人は読むのがかなり楽になるが、音はまったく別物だと思っておくといい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。