どこで、誰が話している?
ロシア語は、ロシアのほか、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスで公用語になっている。タジキスタンでも、民族どうしをつなぐことばとして憲法に書かれている。母語として話す人は約1億4,500万人、第二言語の話し手を合わせると約2億1,000万人を超える。母語話者の数ではヨーロッパでいちばん多い言語だ。
国連の6つの公用語のひとつで、国際宇宙ステーションでは英語と並ぶ公用語でもある。系統はインド・ヨーロッパ語族のスラヴ語派、ウクライナ語・ベラルーシ語と同じ東スラヴ語のグループに入る。
どんな音がする?
耳に残るのは、子音の「かたい/やわらかい」の対だ。多くの子音に、舌の中ほどを上あごに近づけて出すやわらかい版がある。「マ」と「ミャ」のちがいに近いが、ロシア語ではこれが単語の区別そのものになる。
もうひとつは、アクセントのない母音が弱まること。о はアクセントがないと「ア」に近くなる。「牛乳」の молоко は、書いた字のとおり「モロコ」ではなく、「マラコー」と聞こえる。アクセントの位置は単語ごとに決まっていて、形が変わると動くこともあるので、覚えるしかない。
どんな文字で書く?
文字はキリル文字の33文字。母音字10、子音字20、半母音の й、そして音を持たない2つの記号、ъ(硬音記号)とь(軟音記号)でできている。ь は「前の子音をやわらかく読む」というしるしで、文字なのに音がない。
ъ には歴史がある。1918年の正書法改革より前は、かたい子音で終わる単語の末尾にかならず ъ を書いていた。改革でそれが不要になり、ѣ・і・ѵ・ѳ といった字もほかの字にまとめられた。いまの書き文字で ъ が占めるのは約0.02%しかない。ё の上の2つの点は、ふだんの文章では省かれることが多く、е と書いても正しいとされる。
文法のクセ
名詞は6つの格で形が変わり、性は男性・女性・中性の3つ。冠詞はない。そして現在形では「〜である」の動詞を言わないのがふつうで、「私は学生だ」は Я студент(ヤー・ストゥジェーント)、直訳すれば「私、学生」になる。
動詞はたいてい2つで1組になっている。動作の途中やくり返しを表す不完了体と、やり終えたことを表す完了体だ。「読んでいた」と「読み終えた」は、時制ではなく、動詞そのものを替えて言い分ける。
相手の呼び方もふた通りある。親しい相手には ты(ティ)、目上や初対面の相手、それに複数の相手には вы(ヴィ)。手紙では敬意をこめて Вы と大文字で書くこともある。仲よくなると「Давайте перейдём на ты(ティで話しましょう)」と切り替えを持ちかける。どちらで呼ぶかが、ふたりの距離をそのまま表すのだ。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ロシア語のもとになったのは、キエフ・ルーシの時代に話されていた古東スラヴ語だ。書きことばは長いあいだ教会スラヴ語とまざり合っていたが、1755年、学者ロモノーソフが『ロシア語文法』をまとめ、ロシア語の書きことばの土台を整えた。同じ年、彼はのちのモスクワ大学の創設にもかかわっている。
文字も何度か手が入っている。1708年、ピョートル1世が教会の文字とは別の、いまに近い形の「市民字体」を導入した。そして1917年12月の布告と1918年10月の法令で正書法が改められ、いまの33文字の形になった。
いま、この言語は
危機度は「安全」。国の内外で学校や報道、出版に使われる大言語だ。イスラエルでは人口の約15%がロシア語を話すとされ、北米などにも大きな話者の集まりがある。
一方で、旧ソ連の国々のなかには、ロシア語より自国のことばを優先する動きを強めている国もある。どの言語で話すかが、そのまま暮らしや立場に結びつく地域が多いのも、この言語のいまの姿だ。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずはキリル文字の33文字から。英語のアルファベットと形が同じでも読みが違う字(В は「ヴ」、Р は「ル」、Н は「ン」、С は「ス」)を先に押さえると早い。
次の山は、アクセントの位置と、アクセントのない о が「ア」になる読み方。単語は綴りといっしょに、アクセントの位置まで覚えるのがコツだ。最初のひとことは、もちろん「スパシーバ」から。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。