どこで、誰が話している?
サーミ語は、ノルウェー・スウェーデン・フィンランド・ロシアの北部にまたがる地域サープミ(Sápmi)で話されてきた言語の一族だ。ひとつの言語ではなく、いまも生きているものだけで9つあり、そのうち8つが自前の書き言葉を持つ。かつて外から「ラップ語」と呼ばれたが、いまはサーミ語と呼ぶ。
そのなかで話し手がいちばん多いのが北サーミ語で、サーミ語を話す人の7割以上を占めるとされる。話し手は約1万5,000〜2万5,000人。多くはノルウェーにいて、スウェーデンに約5,000〜6,000人、フィンランドに約2,000人。ノルウェーでは北部の県と8つの自治体で公用語、フィンランドでは北部のサーミ地域の4自治体で公的な言語、スウェーデンでは国の少数言語のひとつになっている。
どんな音がする?
耳に残るのは、子音の前にそっと息がもれる前気音だ。「ありがとう」の giitu は、綴りには h がないのに「キーフトゥ」のように t の直前で息が抜ける。g も濁らず、日本語の「キ」に近い。
子音には長さが3段階あり、同じ単語でも形が変わると子音の長さが入れかわる。アクセントは単語の最初に来て、強・弱・強・弱と2拍ずつ波打つように進む。
どんな文字で書く?
ラテン文字だが、á・č・đ・ŋ・š・ŧ・ž という見慣れない字が混じる。đ は英語の this の th、ŧ は think の th に近い音だ。ŋ は「ング」の鼻にかかる音を1文字で書く。
いまの正書法は1979年に、ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの3か国共通のものとして決まった(最後の改訂は1985年)。それまでは国ごとに綴り方がばらばらで、国境を越えると同じ言語が別の書き方をされていた。
文法のクセ
フィンランド語やハンガリー語と同じウラル語族で、名詞は7つの格で形を変える。そして「ひとり」「おおぜい」のほかに、「ちょうど2人」を表す双数がある。「私たち2人」「あなたたち2人」で代名詞も動詞も形が変わる。別れのあいさつも、相手がひとりか2人か3人以上かで言い分ける。
もうひとつ面白いのが、「〜しない」が動詞だということ。否定のことばが人称で活用し、「私はしない」なら in、「君はしない」なら it、「彼・彼女はしない」なら ii になる。
この言語でしか言えない言葉
トナカイを連れて雪原を移動する暮らしでは、雪の「固さ」や「トナカイが掘れるか」が生死に関わる。だから雪の状態を言い分けることばが多い。スウェーデンのサーミ博物館アイッテがまとめた一覧には、雪の質だけで数十の語が並ぶ。そのなかから2つ。
歴史をひとことで
サーミ語で書かれた本は17世紀にさかのぼり、1638年と1640年にスウェーデンで出たABCの本が、決まった書き方で書かれた最初の本とも言われる。しかし19世紀から20世紀にかけて、ノルウェーではノルウェー化政策が進み、学校や役所からサーミ語が締め出された。土地を持つにもノルウェー語の読み書きが求められた時代がある。
流れが変わったのは20世紀後半だ。ノルウェーでは1987年にサーミ法が成立し、1989年にサーミ議会が開かれた。フィンランドでも1991年にサーミ語の言語法ができ、1992年に施行された。
いま、この言語は
ユネスコの区分では「危険」。家庭で子どもに伝わらなくなった世代があり、話し手は多くない。それでも、サーミ語で授業をする学校、サーミ語のテレビやラジオ、キーボードや校正ソフトの整備が進んでいる。とくに č や ŧ のような特別な文字は、かつてコンピューターで扱いにくかったが、いまは普通に打てるようになった。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
ノルウェー北部のトロムソ大学(UiT)が作るサーミ語の辞書・校正ツール群 Giellatekno / Divvun は、単語の活用を確かめるのに便利だ。北欧の公共放送にはサーミ語のニュースもあり、短い番組から耳を慣らせる。
最初は giitu と bures、それに á・č・đ・ŋ・š・ŧ・ž の7文字の読み方から。双数と否定動詞は、慣れるとこの言語のいちばん楽しいところになる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。