どこで、誰が話している?
シンハラ語は、スリランカでいちばん多くの人が話す言語だ。島の最大の民族であるシンハラ人(約1,600万人)の母語で、母語話者は約1,800万人、第二言語として使う人を合わせると約2,000万人になる(2021年の推計)。タミル語とならぶ、スリランカの公用語のひとつでもある。
系統はインド・ヨーロッパ語族のインド・アーリア語派。つまりヒンディー語やベンガル語の親戚で、同じ島で話されるタミル語(ドラヴィダ語族)とは家系がまったく違う。いちばん近い親戚は、海を渡ったモルディブのディベヒ語と、島の先住の人びとが話すヴェッダ語だとされる。
どんな音がする?
母音は7種類あり、それぞれに短いのと長いのがあるので、合わせて14になる。インドの親戚の言語にある「息をともなう子音(kh や bh)」と「ともなわない子音」の区別は、シンハラ語では消えてしまった。
かわりに目立つのが、「半分だけ鼻に抜ける」子音だ。「ンバ」「ンダ」「ンガ」のように、ごく短い鼻音がくっついた子音を、ひとつの音として持っている。しかも、ふつうの「ン+バ」の並びとは区別される。こうした対立を持つ言語は世界でも珍しく、ほかにはアフリカのフラ語など、ごくわずかしか報告されていない。
どんな文字で書く?
シンハラ文字は、子音字に母音の記号をつけて書くタイプの文字で、インドのブラーフミー文字の子孫にあたる。紀元前3世紀ごろに北インドから伝わり、のちに南インドのグランタ文字の影響を強く受けた。遠い親戚には、カンボジアのクメール文字もいる。
字の形は、とにかく丸い。冒頭に書いたとおり、乾かしたヤシの葉に字を刻んでいたからで、直線を引くと葉脈に沿って裂けてしまう。古くからある基本の字(エル字母)は、母音12・子音18。そこにサンスクリット語やパーリ語の語を書くための字が加わり、全体はかなり大きな字母表になる。1815年ごろまでは独自の数字も使われていたが、いまはふつうのアラビア数字で書く。
文法のクセ
語順は「主語・目的語・動詞」で、日本語と同じだ。「〜に」「〜から」にあたる語を名詞のうしろにつける。英語の be 動詞にあたる「〜である」をはさまずに、「これ 本」のように名詞を並べるだけで文が立つのも、日本語話者には親しみやすい。
おもしろいのは、名詞が「生きもの」か「そうでないか」で分かれること。人や動物の名詞は語尾をつけて複数にするが、ものの名詞の多くは、逆に語尾を削って複数にする。もうひとつのクセは、書き言葉と話し言葉の大きな差。書き言葉では主語に合わせて動詞の形が変わるが、話し言葉ではほとんど変わらない。新聞や教科書のシンハラ語と、家で話すシンハラ語は、文法からしてかなり別物なのだ。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
スリランカの年代記『マハーワンサ』は、北インドから渡ってきたヴィジャヤ王子の物語から島の歴史を語りはじめる。言語としての記録は古く、確かな碑文は紀元前3世紀までさかのぼる。当時は「エル」と呼ばれるプラークリット(インドの古い話し言葉)の段階で、そこから原シンハラ語、中世シンハラ語を経て、13世紀ごろから現代のシンハラ語になったと区分される。
古さを感じさせるのが、世界遺産シーギリヤの岩山に残る「鏡の壁」の落書きだ。6〜10世紀に参拝者が書きつけた約1,500編の詩が残っていて、当時のシンハラ語を知る手がかりになっている。仏教とともにパーリ語やサンスクリット語から多くの語が入り、のちにはポルトガル語・オランダ語・英語からも借用が増えた。
いま、この言語は
危機度は「安全」。行政・教育・放送・出版がシンハラ語で動いている。ただ、言語をめぐる歴史は穏やかではなかった。1956年、当時のセイロンで、シンハラ語だけを公用語とする「公用語法(シンハラ・オンリー法)」が成立し、タミル語を話す人びとの強い反発を招いた。のちの長い内戦の要因のひとつに数えられている。
1987年の憲法改正で、タミル語もふたたび公用語となり、英語は両者をつなぐ「連結語」と位置づけられた。ふたつの言語をどう対等に扱うかは、いまも続く課題とされている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは文字から。シンハラ文字は子音字に母音の記号をつける仕組みなので、基本のエル字母(母音12・子音18)を覚えるだけで、かなりの語が読めるようになる。Omniglot のような多言語フレーズ集で、挨拶の綴りと読みを照らし合わせるのもいい。
語順は日本語と同じで、名詞を並べるだけの文もある。最初の山は丸い文字の見分けと、書き言葉と話し言葉の差。まずは両手を合わせて「アーユボーワン」と言うところから始めたい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。