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ことばの図鑑 — ソマリア
Af-Soomaali

ソマリ語——詩の国と呼ばれた土地のことば

「ありがとう」は mahadsanid、「平和」は nabad。19世紀の旅行家に「この国は詩人であふれている」と書かれた、アフリカの角のことばである。

2026-10-23 / 言語と物語の図鑑 編集部

どこで
ソマリアなど
話し手
約2,400万人
系統
クシ語派
危機度
安全

どこで、誰が話している?

ソマリ語は、アフリカ大陸の東の端、「アフリカの角」と呼ばれる地域のことばである。話し手は約2,400万人で、そのうち約1,700万人がソマリアに住む。ソマリアではアラビア語と並ぶ公用語で、ソマリランドでも公用語、エチオピアではソマリ州の作業言語になっている。ジブチでは国語、ケニアでは少数言語として認められている。

系統はアフロ・アジア語族のクシ語派。アラビア語やヘブライ語、アムハラ語と同じ大きな家族に入るが、枝は別だ。クシ語派のなかで、いちばんよく記録されてきた言語でもある。

どんな音がする?

耳に残るのは、のどの奥の音である。ソマリ語の綴りでは、x がのどの奥で息をこする「ハ」、c は同じ場所で声をふるわせる音を表す。英語の x や c とはまったく違う読み方だ。q はのどの奥の「ク」、dh は舌をそり返してはじく、「ド」と「ル」のあいだのような音になる。

母音を2つ重ねると長くのばし、長さで意味が変わる。声の高さも意味を分けるが、これを声調と見るか高さアクセントと見るかは、研究者のあいだで意見が分かれている。

どんな文字で書く?

いまの書き言葉はラテン文字である。英語のアルファベットから p・v・z を除いた文字に、dh・kh・sh の3つの組み合わせを加えて使う。この綴りは、言語学者シレ・ジャマ・アハメドが整えたもので、1972年に正式な表記として決まった。革命3周年の10月21日、パレードの上からこの新しい文字で刷ったビラがまかれた、と伝えられている。

それまでにも文字の試みはあった。宗教者のあいだではアラビア文字で書くことがあり、1920年ごろにはオスマン・ユスフ・ケナディードが独自のオスマニヤ文字を作った。左から右へ書く文字で、ラテン文字に決まるまで使われていた。

Mahadsanid. Nabad.「ありがとう。平和を。」

文法のクセ

語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞。もうひとつの特徴は、文のどこに話の焦点があるかを示す小さなことばだ。baa や ayaa を名詞のあとに置くと、「ほかでもない、それが」と、その語を際立たせる。

名詞には男性と女性があり、面白いことに、複数になると性が入れかわることが多い。単数で男性あつかいの名詞が、複数では女性の形で受けられる。言語学では「性の極性」と呼ばれる仕組みである。

この言語でしか言えない言葉

Gabay
ガバイ
意味ソマリ語の古典的な詩の形のひとつで、もっとも重んじられてきたもの。1行は約14〜16音節で、行の中で同じ音で始まる語をくり返す頭韻が欠かせない。ある詩では、どの行にも dh の音が2回ずつ現れる。ソマリ語の詩は頭韻が必須で、古い英語の詩と比べられることもある。即興で作り、その場で語り、聞いた人が覚えて伝える。ガバイは、文字より先に声で残されてきた、この土地の記録の形でもある。

歴史をひとことで

長いあいだ、ソマリ語は口で伝えることばだった。19世紀のイギリスの旅行家リチャード・バートンは、著書『東アフリカへの最初の一歩』に「この国は詩人であふれている」と書き、族長が詩人を抱えて自分をたたえさせていたことも記した。のちにカナダの作家マーガレット・ローレンスは、ソマリアを「詩人の国」と呼んだ。

20世紀には、文字をどれにするかが長く議論になった。1972年にラテン文字に決まると、ソマリ語は教育の言語として学校で使われるようになった。現代の詩人では、ハドラーウィの名で知られるモハメド・イブラヒム・ワルサメが、多くの人に偉大な詩人と見なされている。

いま、この言語は

国の公用語として学校や放送で使われ、言語としては安定している。さらに、内戦などで国を離れた人びとによって、ソマリ語を話す共同体は北米やヨーロッパにも広がった。新しい土地でも、詩と歌は大切な集まりの中心にある。

ことばカード

ありがとう
Mahadsanid
マハドサニド
お願いします
Fadlan
ファドラン
はい
Haa
ハー
いいえ
Maya
マヤ
平和
Nabad
ナバド
1kow2laba3saddex4afar5shan

もし学ぶなら

おすすめの入り口

ラテン文字なので、まずは x・c・q・dh の読み方を覚えるところから。英語の読み方を一度忘れるのがこつだ。最初の一語は Mahadsanid(ありがとう)がいい。

慣れてきたら、短い詩や歌を声に出してみたい。行ごとにくり返される同じ音を探すと、頭韻の仕組みが耳でわかってくる。詩の国のことばは、聞いて覚えるのがいちばんの近道である。