どこで、誰が話している?
タンザニア、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、コンゴ民主共和国。東アフリカの広い範囲で、公用語または国語として使われている。
おもしろいのは話し手の内訳だ。母語として育つ人は数百万人規模にすぎず、大多数は第二言語として身につけている。推計の幅も大きく、資料によって約5,000万人から約2億人まで開く。数え方が定まらないのは、この言語が「誰の母語か」ではなく「誰と誰のあいだで使われるか」で広がってきたからだ。
どんな音がする?
母音は a・i・u・e・o の5つだけ。しかも音節のほとんどが母音で終わる。日本語話者には、たいへん読みやすい部類に入る。Karibu(カリブ/ようこそ)、Safari(サファリ/旅)——そのままカタカナで発音しても、だいたい通じる。
アクセントは、原則としてうしろから2番目の音節に来る。「カリブ」「サファリ」といった具合だ。そしてバントゥー諸語としては珍しく、声調がない。同じ音の並びを、高さで言い分ける必要がない。
どんな文字で書く?
いまはラテン文字。ただし19世紀半ばまではアラビア文字で書かれていた。アラビア文字を借りて自分たちの言語を書く方式は「アジャミー」と呼ばれる。現在たどれる最古の文書のひとつは、1711年にキルワ(現在のタンザニア)で書かれた手紙で、アラビア文字である。植民地期に宣教師と行政がラテン文字を持ち込み、書き方が入れ替わった。
文法のクセ
名詞が18のクラスに分かれる。人を表すクラス、道具を表すクラス、抽象名詞のクラス……といった具合に、名詞そのものの頭に印がつく。kitabu(本)の複数は vitabu。ki- が vi- に変わる。
やっかいなのは、名詞につられて文じゅうの言葉が形を揃えることだ。「大きい本」は kitabu kikubwa、「大きい本(複数)」は vitabu vikubwa。形容詞まで ki- と vi- を着せ替える。
動詞のほうは、部品を前からつなげていく。ni-na-ku-penda は「私・いま・あなたを・好き」。これで ninakupenda(私はあなたが好きだ)という1語になる。主語も時制も目的語も、動詞のなかに入ってしまう。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
もともとは東アフリカ沿岸の交易のことばだった。名前じたいがそれを示していて、Swahili はアラビア語の sawāḥil(沿岸)に由来する。インド洋を行き来する船とともに育ったので、アラビア語からの借用語がとても多い(多く見積もって語彙の約4割とする説もある)。
ばらばらだった各地の方言を1つにまとめたのは20世紀だ。1928年にモンバサで開かれた会議でザンジバルの方言(キウングジャ)が土台に選ばれ、1930年に言語委員会が発足して標準スワヒリ語の整備が始まった。植民地行政の都合で進んだ事業でもある。
そして1961年、タンガニーカ(現在のタンザニア)が独立する。ニエレレは、民族ごとに言語が違う国をまとめる軸としてスワヒリ語を選んだ。ケニアでも1964年に国語となり、2010年の憲法で公用語になった。
いま、この言語は
危機度は「安全」。むしろ、いま勢力を広げている側の言語だ。
2021年11月、ユネスコは7月7日を「世界キスワヒリ語の日」と定めた。国連機関がこうした日を設けたアフリカの言語は、これが初めてである。さらに2022年2月、アフリカ連合はスワヒリ語を6番目の作業言語として採択した。英語・フランス語・ポルトガル語・アラビア語・スペイン語に、アフリカ生まれの言語がひとつ加わった。ウガンダも同じ2022年に公用語に加えている。
機械翻訳や音声認識の対応も、アフリカの言語のなかでは進んでいるほうだ。話す人が多いことに加えて、「国をまたいで使われる」という性格が、そのまま需要になっている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
発音でつまずきにくい言語なので、最初の1週間はあいさつと名詞クラスだけでいい。ki-/vi-、m-/wa- のような、頭の部品が入れ替わる感覚をつかむと、あとの文法がまとめて見通せるようになる。
耳を慣らすなら、BBC の BBC Swahili(Dira ya Dunia)や、ドイチェ・ヴェレのスワヒリ語版など、放送局のニュースが手に入りやすい。動詞の頭についた ni-/u-/a- を聞き分けられるようになると、意味の輪郭が急に見えてくる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。