どこで、誰が話している?
タミル語は、インド南端のタミル・ナードゥ州を中心に話されている。現地での名前は தமிழ்(タミル)。母語の話し手は約7,900万人、第二言語として使う人を合わせると約8,600万人になる。
インドではタミル・ナードゥ州とプドゥチェリーの公用語で、海を渡ったスリランカではシンハラ語と並ぶ公用語、シンガポールでも4つの公用語のひとつだ。マレーシアや南アフリカ、カナダなどにも、移り住んだ人々の大きな話し手のまとまりがある。
どんな音がする?
名前の最後の音からして難しい。ழ は舌先を奥へそらせたまま「ル」と「ジュ」のあいだのような音を出す、そり舌の接近音だ。ローマ字では zh と書かれることが多く、タミル語という名前の Tamizh にもこの音が入っている。
舌の位置の区別が細かく、l に聞こえる音が3つ、r が2つ、n が3つある。一方で、k と g、t と d のような濁るかどうかは、単語のなかの位置でほぼ自動的に決まる。語頭では清音、母音にはさまれると濁音になる。「ありがとう」の நன்றி は、カタカナにすると「ナンドリ」に近い。
どんな文字で書く?
使うのはタミル文字。子音に母音の記号をくっつけて1文字をつくるタイプの文字で、母音が12、子音が18、特別な文字アーイタムが1つ、そこから組み合わせでできる文字が216あり、全部で247文字になる。
インドのほかの文字とくらべると、字の数はずっと少ない。濁るかどうかが位置で決まるので、k と g はどちらも க の1文字で書き、息を強く出す音にも専用の字を持たない。子音の上の小さな点(プッリ)は、「母音をつけない」という印だ。
文法のクセ
語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞で、単語のうしろに部品を次々とつなげていく。போகமுடியாதவர்களுக்காக(ポーガムディヤーダヴァルガルッカーガ)は、「行く・できる・ない・人・たち・に・のために」をつないだ1語で、「行けない人たちのために」という意味になる。
もうひとつは「私たち」が2つあること。聞き手を含む「私たち」は நாம்(ナーム)、聞き手を含まない「私たち」は நாங்கள்(ナーンガル)。「私たち(あなたも一緒に)行こう」と「私たち(あなた抜きで)行くね」を、代名詞だけで言い分けられる。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
タミル語は、インド・ヨーロッパ語族とは別のドラヴィダ語族の言語で、紀元前300年ごろから記録が残る。最古の文法書『トルカーッピヤム』は早ければ紀元前2世紀とされ、紀元前1世紀から5世紀ごろにかけて、恋や戦を詠んだ2,000を超えるサンガム文学の詩が書かれた。
5世紀ごろの『ティルックラル』は、1,330の2行詩で徳・富・愛を語る格言集で、約57の言語に訳されている。英語の catamaran(双胴船)も、タミル語の kaṭṭumaram(縛った木)が語源だ。
いま、この言語は
話し手が多く、危機度は「安全」。古い文学がそのまま読み継がれる一方で、書き言葉のセンタミルと、日常で話すコドゥンタミルのあいだには大きな差がある。ニュースや本は前者、映画やおしゃべりは後者、という使い分けだ。
1916年ごろには、学者マライマライ・アディガルらがサンスクリット由来の語を減らそうとする純粋タミル運動を広げた。そして2004年、タミル語はインド政府が認める最初の「古典語」になった。2,000年前の詩の言葉と、いま街で話される言葉が、同じ言語として続いている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは247文字を「12の母音×18の子音」の表として覚えるといい。子音の形に母音の記号がつく規則がわかれば、全部を丸暗記しなくても読めるようになる。
次に気をつけたいのが、書き言葉と話し言葉の差だ。教科書のていねいな形(போய் வருகிறேன்)と、映画や会話で聞く形(போய்ட்டு வரேன்)を、最初から両方並べて覚えておくと、実際の会話で戸惑いにくい。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。