どこで、誰が話している?
トルコ語を話すのは、おもにトルコに住む人だ。母語話者は約8,500万人、第二言語として使う人を足すと約9,000万人ほどになる。テュルク語族でいちばん話し手が多い言語である。
トルコの公用語であると同時に、キプロスの2つの公用語のうちのひとつでもある。国外ではドイツに200万人を超える話し手がいる。1960年代からの労働移民とその子や孫の世代で、ベルリンやケルンの街角にトルコ語の看板は珍しくない。
どんな音がする?
この言語の音を決めているのは母音調和という規則だ。ひとつの単語のなかでは、前寄りの母音(e, i, ö, ü)どうし、奥寄りの母音(a, ı, o, u)どうしでそろう。だから語尾も、くっつく相手に合わせて姿を変える。「〜たち」を表す複数形は、ev(家)なら evler(エヴレル)、kitap(本)なら kitaplar(キタプラル)。同じ意味の語尾なのに、母音が引っぱられて別の形になる。
結果として、長い単語でも音がばらけず、なめらかに転がっていくように聞こえる。
どんな文字で書く?
ラテン文字を使う。ただし英語のアルファベットとは中身が違って、全部で29文字、そのうち母音が8つある。q・w・x は入っておらず、代わりに ç・ğ・ı・ö・ş・ü が加わる。
面白いのは i の扱いだ。点のある i と点のない ı が別の文字で、大文字も İ と I に分かれる。İstanbul の頭文字の点は、飾りではなく必然である。
文法のクセ
語順は日本語と同じ「主語—目的語—動詞」。しかも助詞のように語尾をつなげて意味を足していくので、日本語話者には骨格がつかみやすい。ev(家)→ evim(私の家)→ evimde(私の家で)と、部品が右へ右へ積まれていく。文法上の性はなく、「彼」も「彼女」も o のひとつだ。
いっぽう日本語にない仕掛けもある。その話を自分で見たのか、人から聞いたのかを、動詞の語尾で区別するのだ。自分が見た過去は -dı、人づてや推測なら -mış を使う。Ahmet geldi なら「アフメットが来た(私は見た)」、Ahmet gelmiş なら「アフメットが来たらしい(誰かに聞いた)」。日本語の「〜らしい」に近いが、トルコ語ではこれが必須の文法である。噂と目撃を、言い分けないまま話すことができない。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
オスマン帝国の時代、トルコ語はアラビア文字で書かれ、アラビア語とペルシア語の語彙を抱えていた。それが変わったのが1928年。11月1日に「トルコ文字の採用と適用に関する法律」(法律第1353号)が可決され、11月3日の官報掲載と同時に施行される。アラビア文字の公的な役割は、そこで終わった。
準備期間はごく短かった。同じ年の8月に新しい文字が公表され、10月には公務員が新文字の試験を受けている。ムスタファ・ケマル・アタテュルク自身が黒板を持って各地をまわり、人々に新しい字を教えた。識字率は1927年に約10.5%、1935年には約20.4%と記録されている。
文字の次は語彙だった。1932年にトルコ言語協会(TDK)が設立され、アラビア語・ペルシア語由来の言葉をトルコ語の材料でつくった新語に置き換えていく運動が進む。結果として、いまのトルコ語と100年前の文章のあいだには、かなりの距離ができた。
いま、この言語は
危機度は「安全」。教育も行政も出版も、この言語で回っている。テュルク語族の親戚——アゼルバイジャン語、カザフ語、ウズベク語など——は中央アジアまで広く分布していて、なかでもアゼルバイジャン語とはかなりの部分が通じる。
デジタル面でも対応は充実しているほうだ。ただ ı と i のように点で区別する文字があるため、環境によっては表示や検索でつまずくことがある。文字を選び直した国の、いまの宿題である。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
最初にやるべきは、29文字の読み方をひととおり覚えること。綴りと音がほぼ一対一で対応しているので、ここを越えれば知らない単語でも声に出せる。とくに ı・ğ・c・ş は英語の勘が通じないので、先に潰しておくといい。
次が母音調和。語尾が2種類(e/a)や4種類(i/ı/u/ü)に変わる仕組みを掴むと、複数形も所有も過去形も、同じ規則の応用として見えてくる。語順が日本語とほぼ同じなので、文の組み立てで悩む時間は少ない。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。