どこで、誰が話している?
ベトナム語はベトナムの公用語で、国民の大多数の母語だ。母語話者は約8,600万人、第二言語として使う人も約1,100万人いる。多くの民族が暮らすベトナムでは、民族をこえてやりとりするための共通語でもある。
国外にも話し手のコミュニティが広がっていて、ヨーロッパではチェコとスロバキアで少数言語として公式に認められている。系統はオーストロアジア語族で、カンボジアのクメール語と遠い親戚にあたる。見た目や語彙は中国語に似ているが、系統としては別の一族だ。
どんな音がする?
いちばんの特徴は声調。ハノイを中心とする北部のことばには6つの声調があり、同じ綴りの音でも、高さや上げ下げ、喉のしめ方が違えば別の単語になる。南部では多くの場合5つに減る。
有名なのが「マ」の例だ。ma(幽霊)/má(母・頬)/mà(しかし)/mả(墓)/mã(馬)/mạ(苗)。日本語話者にはどれも「マ」だが、ベトナム語では6つとも別のことばになる。単語の多くが1音節で、ひと息ごとに音程が動くので、歌うような響きに聞こえる。
どんな文字で書く?
いまのベトナム語は、ラテン文字をもとにしたクオック・グー(chữ Quốc ngữ = 国語の字)で書く。全29文字で、f・j・w・z は外来語でしか使わない。そのかわり ă・â・ê・ô・ơ・ư・đ という飾りつきの文字が、それぞれ独立した一文字になっている。
さらにその上から、声調を示す5種類の記号が乗る。記号のない「平らな声調」とあわせて6つ。ひとつの母音の上に記号がふたつ重なることも珍しくない。
文法のクセ
単語の形がまったく変わらない。動詞の活用も、名詞の複数形もない。過去や未来は、動詞の前に đã(〜した)や sẽ(〜するだろう)といった小さな語を置いて表す。語順は「主語・動詞・目的語」で、修飾することばは後ろにつく。Tiếng Việt も「ことば+ベトナム」の順だ。
日本語話者が驚くのが「私」「あなた」の選び方。ベトナム語では anh(兄)、chị(姉)、em(弟・妹)、ông(祖父)、bà(祖母)といった家族の呼び名を、他人に対しても人称代名詞として使う。相手が自分より年上か年下かで呼び方が変わるので、初対面で年齢をたずね合うこともある。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ベトナムは長く漢字文化圏にあり、正式な書きものは漢文だった。13世紀ごろには、漢字を組み合わせてベトナム語の音を書く独自の文字字喃(chữ Nôm)が生まれる。1820年に刊行された長編詩『金雲翹(Truyện Kiều)』は、この字喃で書かれた最高傑作とされる。
いまのアルファベット表記の出発点は17世紀。ポルトガル人のイエズス会宣教師が1620年ごろから工夫を重ね、1651年にはアレクサンドル・ド・ロードの辞書がローマで出版された。フランス植民地政府が1910年にこの表記を公式に導入し、1919年には1075年から続いた科挙が最後の試験を終える。1945年、独立を宣言した新政府は、当時約95%が読み書きできないとして識字運動を始め、1年で約250万人がクオック・グーを覚えた。
いま、この言語は
危機度は「安全」。行政・教育・出版・放送のすべてがこの言語で動いていて、音声アシスタントなどのデジタル対応も充実している。
字喃はいまでは一般には使われなくなったが、漢字の名残はことばの中に残っている。漢字に由来する語は語彙の約3分の1にのぼり、改まった文章では6割に達することもある。Việt Nam は「越南」、cảm ơn(ありがとう)は「感恩」だ。文字は変わっても、ことばの骨組みには漢字の時代が生きている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
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最初の山は6つの声調。綴りの記号と音の動きを結びつけて、耳と口で覚えるのが近道だ。いっぽうで、日本語話者には漢字語という味方がいる。chú ý(注意)のように、音読みと似た響きの単語があちこちに隠れている。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。