ことばKOTOBA
ことばの図鑑 — 沖縄・八重山列島
ヤイマムニ

八重山語——「重大な危険」の島々のことば

「花」はぱな、「浜」はぱま。日本語がとうに手放したpの音が、いまも残る島々がある。2009年、ユネスコはこのことばを、日本の言語でアイヌ語に次いで危うい「重大な危険」に数えた。

2026-10-05 / 言語と物語の図鑑 編集部

どこで
沖縄・八重山列島
話し手
民族人口 約4万7,600人(話し手は約7,000〜1万人)
系統
日琉語族 南琉球
危機度
重大な危険

どこで、誰が話している?

八重山語は、沖縄本島から南西へ約400km、台湾にほど近い八重山列島で話されてきたことばだ。石垣島・竹富島・小浜島・黒島・新城島・鳩間島・西表島・波照間島に、それぞれの言い方がある。地元では「ヤイマムニ」(八重山のことば)と呼ばれる。

宮古語・与那国語とともに、日琉語族の南琉球のグループに入る。ただし与那国島のことばは別の言語として数えられ、八重山語には含めないのがふつうだ。島どうしの差は大きく、たとえば「ようこそ」は石垣島では「おーりとーり」、小浜島や黒島では「おーりたぽーり」になる。島が違えば会話は通じにくいとされる。

民族としての人口は約4万7,600人(2000年)と見積もられている。そのうち家でこのことばを話す人は約7,000〜1万人とする推計がある。60歳より下の世代は、歌や祭りをのぞけばほとんど使わないという。

どんな音がする?

耳でいちばんわかりやすいのは、日本語のハ行がpで出てくることだ。「花」はぱな、「浜」はぱま、「骨」はぷに。日本語のハ行も、ずっと昔はpに近い音だったと考えられている。八重山語は、日本語が途中で変えた音を、そのまま持ち続けてきたことになる。

母音は、石垣のことばで6つとされる。日本語の5つに、「イ」と「ウ」のあいだのような中舌の母音が加わる。研究では ï と書かれ、擦れるような音をともなって発音される。島によっては7つ、あるいは5つにまとまっていて、母音の数さえ島ごとに違う。南の端の波照間島のことばは、息を強く吐く音がとくにはっきりしている。

どんな文字で書く?

八重山語は、日本語と同じひらがなとカタカナで書かれる。ただ、中舌母音のように日本語にない音があるため、決まった書き方はまだ固まっていない。研究ではローマ字や音声記号が使われ、一般向けには小書きの字などで工夫して近づける。沖縄県は、しまくとぅばをかなで書くための目安を公開している。

みーふぁいゆー八重山のことばで「ありがとう」

文法のクセ

語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞で、助詞にあたるものもある。ただ、動詞の活用は島ごとにかなり違う。鳩間島のことばは活用がもっとも簡単だとされる一方、波照間島のことばは格を表す助詞が9つ、助動詞が11あると報告されている。

疑問の言い方にも違いがある。「誰が」「何を」のような疑問詞を使う文で、日本語なら「か」を使うところに、八重山語では「どぅ」をつけて問う形が使われる。

この言語でしか言えない言葉

うつぐみ
utsugumi
意味「みんなで心をひとつにして協力すること」。竹富島の島言葉で、「賢さよりも一致協力が勝る」という教えとともに語り継がれてきた。沖縄本島の「ゆいまーる」(助け合い)より広い意味を持つとされ、島の暮らしの基本の精神になっている。
おーりとーり
oori toori
意味「ようこそ、いらっしゃい」。石垣島で客を迎えることばで、空港や店の看板でもよく見かける。沖縄本島の「めんそーれ」、宮古の「んみゃーち」にあたるが、島が変わるとまた別の言い方になる。

歴史をひとことで

八重山の島々は、のちに琉球王国の支配下に入った。1609年に薩摩藩が琉球に侵攻すると王府の財政は苦しくなり、1637年から宮古と八重山にだけ人頭税が課された。15歳から50歳までの男女ひとりひとりにかかる税で、1903年に廃止されるまで約260年続いた。

この時代の記憶は、八重山のことばの歌に残っている。竹富島の「安里屋ユンタ」は、田植えなどの作業で歌われた労働歌で、役人の求愛を断った実在の女性クヤマの気丈さを歌う。いまでは沖縄を代表する民謡のひとつになった。

1879年に沖縄県が置かれると、学校では日本語で教えることになり、八重山のことばは「方言」として家と集落の中へ押し戻されていった。

いま、この言語は

2009年、ユネスコは日本の消滅危機言語8つを挙げ、八重山語を与那国語とともに「重大な危険」に分類した。アイヌ語の「極めて深刻」に次ぐ段階で、沖縄語や宮古語の「危険」よりひとつ重い。親から子へことばが受け渡されなくなっている、という判定である。

それでも、ことばは歌の中で生きている。石垣島の「とぅばらーま」のように八重山の歌は今も歌い継がれ、学校の授業や地域の講座、ラジオなどで、島ごとのことばを伝える取り組みが続いている。

ことばカード

ありがとう
みーふぁいゆー
miifaiyuu
ようこそ
おーりとーり
oori toori
こんにちは
くよーなーら
kuyoo naara
花
ぱな
pana
浜
ぱま
pama

もし学ぶなら

おすすめの入り口

まずは「みーふぁいゆー」と「おーりとーり」を覚えること。石垣島を歩けば、看板や店の名前にこのことばが見つかる。次に、日本語のハ行の単語をpに置きかえて、八重山ではどう言うかを探してみると、古い日本語の音が見えてくる。

沖縄県の普及資料『やいまむに(八重山ことば)』には、あいさつや身近な単語がまとめられている。「安里屋ユンタ」を八重山のことばの歌詞で聴いてみるのも、いい入り口だ。