どこで、誰が話している?
ヨルバ語は、ナイジェリア南西部を中心に、隣のベナンやトーゴでも話される言語だ。母語話者は約4,800万人、第二言語として使う人を合わせると約5,000万人になる。ナイジェリアの最大都市ラゴスも、ヨルバ語圏の中にある。
系統はニジェール・コンゴ語族(アトランティック・コンゴ諸語のヴォルタ・ニジェール語群)。アフリカで最も大きな語族の一員で、話し手の数ではアフリカ有数の大きな言語だ。
どんな音がする?
ヨルバ語は声調言語で、高・中・低の3つの音の高さが意味を分ける。有名な例が「オコ」だ。ọkọ(平らに)は「夫」、ọkọ́(最後を高く)は「くわ」、ọkọ̀(最後を低く)は「乗り物」、ọ̀kọ̀(両方低く)は「槍」。同じ「オコ」が、高さだけで4つの単語になる。
子音では「グブ」と書くgbが面白い。グとブを続けるのではなく、のどの奥と唇を同時に閉じて一気に開く、ひとつの音だ。「全部」を意味するgbogboは、その音が2回出てくる。
声調があるからこそ、太鼓がことばを話せる。砂時計形の太鼓ドゥンドゥンは、ひもを締めたりゆるめたりして音の高さを変え、ヨルバ語の3つの声調をなぞる。2021年の音響研究では、太鼓の音が話しことばの高さの動きをかなり正確に写していることが確かめられた。
どんな文字で書く?
書くのはラテン文字で、基本は24文字。英語にないのが、下に点のついたẹ・ọ・ṣだ。ẹ と ọ は口を広く開けた「エ」「オ」、ṣ は「シ」に近い音をあらわす。
そこへ声調の記号がのる。高い音には右上がりの「´」、低い音には「`」をつけ、中の高さは何もつけない。記号を省いて書くと、さっきの「夫」と「乗り物」の区別がつかなくなる。
文法のクセ
語順は英語と同じ「主語・動詞・目的語」。名詞に男女の区別はなく、単語の形もほとんど変化しない。そのかわり、動詞をいくつも並べてひとつの動作を言う連続動詞がよく使われる。
数え方も独特だ。基本の単位は20で、しかも引き算を使う。15は「20から5を引いたもの」、16は「20から4」、19は「20から1」。35は「40から5」になる。数を言うたびに、頭の中で小さな計算が走る。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
ヨルバ語は長く、話しことばと太鼓、そして口で伝える詩で受け継がれてきた。代表が占いの体系イファで、256の章に数えきれない詩がつながる。この伝統は2005年にユネスコの「人類の口承及び無形遺産の傑作」に選ばれ、2008年に無形文化遺産の一覧に加わった。
書きことばの土台を作ったのは、ヨルバ人のサミュエル・アジャイ・クラウザーだ。1821年に奴隷狩りにさらわれ、同じ年にイギリス海軍に救われた少年は、のちに1843年にヨルバ語の文法書を出し、聖書の翻訳を始めた。1864年にはアフリカ人として初めて英国国教会の主教になっている。ヨルバ語の聖書は1880年代半ばに完成した。
いま、この言語は
危機度は「安全」。ラジオやテレビ、映画、音楽で毎日使われ、ナイジェリアの映画産業「ノリウッド」にもヨルバ語の作品が多い。
ことばは大西洋も渡った。奴隷貿易で連れていかれた人びとの信仰の中で、キューバのサンテリアではルクミとして、ブラジルのカンドンブレでは祈りのことばとして、いまも唱えられている。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
文字はラテン文字なので、点つきの3文字と声調の記号を覚えれば読みはじめられる。つまずきやすいのは声調で、最初から記号つきの綴りで単語を覚えるのが近道だ。
まずは「ẹ kú」のあいさつをいくつか覚えたい。相手が何をしているかを見て、それに合ったひとことをかける。ことばと一緒に、ヨルバの人たちの気づかいのしかたも身につく。最初のひとことは「エシェ」から。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。