どこで、誰が話している?
ユカテコ・マヤ語は、メキシコの東、カリブ海に突き出たユカタン半島のことばだ。ユカタン州・キンタナ・ロー州・カンペチェ州を中心に、ベリーズの北部でも話されている。話し手自身は、ただ「マヤ語(Maaya tʼaan)」と呼ぶ。言語学者が「ユカテコ」をつけるのは、グアテマラなどで話されるマヤ系のほかの言語と区別するためだ。
2020年のメキシコ国勢調査では、母語として話す人は約77万5,000人。ベリーズなどを合わせると約80万人になる。メキシコの先住民言語のなかでは、ナワトル語に次いで話し手が多いグループに入る。国の法律で、スペイン語と並ぶ「国の言語」のひとつとして認められている。
どんな音がする?
耳に残るのは、のどをきゅっと閉めてから弾くように出す放出音だ。綴りではアポストロフィ(ʼ)で書く。tʼàan(トゥアーン)は「ことば」、táan(ターン)は「ひたい」。tʼ と t のちがいだけで、別の単語になる。
もうひとつの特徴は声の高さだ。マヤ系の言語で声調を持つのはごく一部で、ユカテコはそのひとつ。長い母音を高く言うか低く言うかで、míis は「ほうき」、miis は「猫」になる。
どんな文字で書く?
古代のマヤの人びとは、絵のようなマヤ文字で石碑や本に記録を残した。16世紀にスペインが来てからは、ラテン文字で書くようになった。当時のスペイン語の書き方をそのまま借りたので、x は「シュ」と読む。ユカタンの地名に x が多いのはこのためだ。
いまの標準的な綴りは1984年に初めて定められ、2014年には国の先住民言語研究所(INALI)が新しい書き方をまとめた。
文法のクセ
文は動詞から始まる。語順はおもに「動詞—目的語—主語」で、日本語とはほぼ逆向きだ。
もうひとつ面白いのは、時制がないこと。「〜した」「〜する」を動詞の形で分けるのではなく、動作が始まったか、終わったか、続いているかという「相」で言い分け、いつのことかは話の流れから読み取る。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
スペイン人がユカタンに着いたのは1517年。征服には3世代、合わせて24年の戦いがかかり、1542年から1821年まで植民地の支配が続いた。宣教師たちはマヤ語をラテン文字で書き、教会のことばとして使った。
いっぽうで1562年、フランシスコ会のディエゴ・デ・ランダはマニの町で、マヤ文字の本を燃やした。皮肉なことに、のちに彼がスペインで書いた記録に残る「マヤ文字の表」は、20世紀にマヤ文字を解読するための大事な手がかりになった。
いま、この言語は
話し手の数は多いが、少しずつ減っている。ユカタン州でマヤ語を話す人の割合は、2000年の約3分の1から、2020年には4分の1を下回った。家庭で子どもに伝わらなくなっていることが大きいとされる。
そのなかで、2019年にユカタン州議会は州の学校でマヤ語を教えることを全会一致で義務にした。ラジオ放送があり、2013年にはマヤ語の連続ドラマ『バクトゥン』も放送された。映画『アポカリプト』(2006年)も、全編このことばで撮られている。
ことばカード
「さようなら」「はい/いいえ」は資料によって形がばらつくため、ここでは外した。数字は、ふだんはスペイン語で数える人も多い。
もし学ぶなら
おすすめの入り口
まずは Bix a beel? と Maʼalob の往復から始めるといい。相手の「道」をたずねて、「いいよ」と返す。それだけで会話がひとつ回る。綴りは INALI の書き方にそろえた教材を選ぶと迷いにくい。
ユカタンを旅するなら、地図で x と ʼ のつく地名を探して、声に出して読んでみよう。セノーテの水をのぞきこむとき、その名前がマヤ語の「水のありか」だったことを思い出すはずだ。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。