どこで、誰が話している?
ズールー語は、南アフリカ共和国の東部、クワズール・ナタール州を中心に話されている。2022年の国勢調査では、家でいちばんよく使う言語としてこの言語を挙げた人が約24.4%(約1,513万人)で、国内第1位だった。クワズール・ナタール州にかぎれば、5人のうち4人がこの言語を使っている。
第二言語として使う人も多く、南アフリカ人の半数以上が聞いて分かるとされる。1996年に定められた憲法のもと、国の公用語のひとつでもある。
どんな音がする?
この言語の名前を出すと、まず話題になるのがクリック音だ。舌打ちや、馬を急かすときの「チッチッ」のような音。日本語では合図として使うあの音が、ズールー語では単語をつくる普通の子音として働く。
基本の舌打ちは3種類ある。歯の裏で鳴らす音、上あごから舌を勢いよく離す音、口の横から空気を吸う音。これに帯気や鼻音化などの組み合わせが加わって、全部で18のクリック子音になる。
もうひとつの特徴が声調で、低・高・下降の3つがある。umfundisi は、音の高さの置き方によって「牧師」にも「教師」にもなる。高さは文字に書かれないので、文脈と耳で埋めることになる。
どんな文字で書く?
使うのはラテン文字。ただし、宣教師たちはクリック音のために新しい記号を作らず、ヨーロッパの言語であまり使い道のなかったc・q・x の3文字を舌打ちに割り当てた。だから、隣のコサ語の「Xhosa」の X も、エックスではなく舌打ちである。
ほかにも、hl は舌の両脇から息を漏らす一つの音、ph は息を強く出す p というふうに、二文字で一つの音を表す綴りが多い。知らずに読むと別の音になる。
文法のクセ
バントゥー諸語の看板ともいえる名詞クラスがある。ズールー語には16のクラスがあり、名詞は必ずどれかに属して、頭に決まった接頭辞をつける。umuntu(人)の複数形が abantu(人々)になるように、単数と複数で頭が入れ替わる。
面白いのは、この接頭辞が名詞だけで終わらないことだ。同じ文のなかの動詞や形容詞まで、主語のクラスに合わせて頭の形を変える。文全体が同じ音でそろっていく。
言語や人の呼び名も、このクラスで作り分ける。言語は isi- のクラスなので isiZulu、人は um-/ama- のクラスなので umZulu(ズールー人ひとり)と amaZulu(ズールー人たち)となる。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
19世紀のはじめ、シャカ(在位1816〜1828年)がングニ系の諸集団をまとめ、ズールー王国を築いた。クリック音も、もともとこの地に住んでいたコイサン系の人々の言語との接触から入ってきたと考えられている。
書き言葉としての出発は、それより少し後だ。1850年、ノルウェー人宣教師ハンス・シュルーダーが最初のズールー語文法書を刊行し、1883年には聖書の翻訳が出た。1901年にはジョン・ドゥベが南アフリカで初の黒人による教育機関オーランゲ学院を設立し、1930年に彼の Insila kaShaka がズールー語で書かれた最初の小説になった。
いま、この言語は
危機度は「安全」。ラジオもテレビも新聞も学校もこの言語で動いていて、話し手はむしろ増えている。2011年の国勢調査では家庭言語としての割合が約22.7%だったのが、2022年には約24.4%に上がった。
課題はデジタルのほうにある。話し手が1,000万人を超えていても、機械翻訳や音声認識の学習に使えるデータの量は英語とくらべものにならない。南アフリカにはデジタル言語資源センター(SADiLaR)があり、国内の言語のコーパスや辞書を公開している。大きい言語でも、放っておけばネットの上では小さいまま——という前提で動いているわけである。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
南アフリカ大学(UNISA)が、初級のズールー語の教材を無料のPDFで公開している。単元ごとに短くまとまっていて、最初の1冊として扱いやすい。
やる順番としては、まず c・q・x の3つの舌打ちを口で作れるようにすること。ここを飛ばすと、単語を覚えても音にできない。次が名詞クラスの接頭辞で、um-/aba-、isi-/izi- あたりの主要な組を押さえると、知らない単語でも単数か複数かの見当がつくようになる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。