文字は「音のどの単位」を書くかで分かれる
世界には何百という文字がある。だが、見た目ではなく「ことばのどの単位をひとつの記号に割り当てるか」で整理すると、型はぐっと少なくなる。文字研究の定番である Daniels と Bright の『The World's Writing Systems』(1996年)は、大きく5つに分けた。表語文字、音節文字、アルファベット、アブジャド、アブギダである。
順に見ていくと、日本語のふしぎな立ち位置も見えてくる。
型1・型2:意味を書くか、音節を書くか
ひとつめは表語文字。漢字がこれで、「山」という一文字が「やま」という意味と音のまとまりを同時に背負う。中国語の漢字は原則として一文字が一音節なので、研究者は「表語音節文字」と呼ぶこともある。覚える文字数は多いが、読めば意味がすぐ取れる。
ふたつめは音節文字。ひらがな・カタカナがそうで、「か」「き」「く」のように一文字が一音節(正確には拍)を表す。文字どうしに形の共通性はなく、「か」と「き」が似ていないのは、音節文字のごく普通の性質だ。
型3〜5:アルファベットと、その2つの親戚
ここから先は、音節をさらに細かく割った文字だ。
| 型 | 何を書くか | 例 |
|---|---|---|
| アルファベット | 子音も母音も、対等に一文字ずつ書く | ラテン文字・ギリシャ文字・キリル文字 |
| アブジャド | 基本は子音だけを書き、母音は省くか小さな記号で補う | アラビア文字・ヘブライ文字 |
| アブギダ | 子音の文字にはじめから母音「a」がついていて、別の母音にしたいときは記号を足す | デーヴァナーガリー(ヒンディー語)・エチオピア文字(アムハラ語)・タイ文字 |
アブジャドという名前は、アラビア文字の古い並び順の最初の4文字「a・b・j・d」から来ている。母音を書かないと聞くと不便に思えるが、アラビア語やヘブライ語は子音の骨組みが意味を担う言語なので、慣れた読み手には十分に読める。子ども向けの本やクルアーンでは、母音の記号がていねいに振られる。
アブギダは、エチオピア文字の伝統的な並び順「a・bu・gi・da」から取られた名前で、この用語自体は1990年に Peter T. Daniels が提案した比較的新しいものだ。インドから東南アジアにかけての文字の多くがこの型に入る。
アルファベットの歴史は、フェニキア人の子音文字(アブジャド)をギリシャ人が借り、使わない子音の文字を母音に転用したところから始まる。そこからラテン文字とキリル文字が枝分かれした。つまりアルファベットは、アブジャドの改造版として生まれている。
日本語は、2つの型を混ぜて使っている
ここで日本語に戻ると、立ち位置がはっきりする。漢字(表語文字)と、かな(音節文字)を一つの文の中で混ぜて使う。「山に登った」という文は、意味の核を漢字で、活用や助詞をかなで書いている。世界を見わたしても、型の違う文字を日常的に混ぜ書きする言語はごく少ない。
しかも、ローマ字やアラビア数字も普通に混ざる。日本語の文は、5つの型のうち少なくとも3つを一行に同居させていることになる。読み書きの習得に時間がかかると言われるのは、文字の数だけでなく、この「型の混在」も一因である。
型の外にある文字——ハングル
5つの型に収まりきらないものもある。朝鮮語のハングルは子音と母音を一文字ずつ持つのでアルファベットに分類されるが、文字の形そのものが「舌の位置」「唇の形」といった発音のしくみをかたどっている。研究者はこれを「素性文字(featural)」と呼び、アルファベットの中でも特別な位置に置く。
1446年に公布された『訓民正音』は、文字を作った人と年がわかる、世界でも珍しい文字だ。この話は、いずれ韓国語の図鑑で詳しく書く。
言語や文字の分類は研究者によって幅があります。本文は代表的な整理にもとづく概説です。