どこで、誰が話している?
ウルドゥー語はパキスタンの国語だ。ただし、2023年の国勢調査でウルドゥー語を母語と答えた人は約9%にすぎない。多くの人はパンジャーブ語やパシュトー語、シンド語などを家で話し、ウルドゥー語は学校や新聞、テレビ、そして違う母語の人どうしが話すときの共通語として使う。
インドにも話し手は多い。2011年の国勢調査では約5,080万人が母語としていて、ウッタル・プラデーシュ州やビハール州、テランガーナ州などでは公用語のひとつになっている。母語と第二言語を合わせると、話し手は世界で約2億4,600万人と推計される。
どんな音がする?
話しことばの骨組みはヒンディー語とほぼ同じで、舌を反らせる「タ」や、息を強く吐く「カ」と吐かない「カ」の区別がある。そのうえでウルドゥー語らしさが出るのは、ペルシア語・アラビア語から入った音だ。喉の奥で出す「q」、のどをこする「kh」や「gh」を、ウルドゥー語では話し手がはっきり区別する。ヒンディー語では、これらを k・kh・g と同じように発音する人も多い。
「ありがとう」の شکریہ は「シュクリヤー」。最初の「シュ」もペルシア語経由の音である。
どんな文字で書く?
文字はアラビア文字をもとにしたもので、右から左へ書く。そこに、反り舌の「ト」ٹ や「ド」ڈ、息を伴う音をつくる ھ(ド・チャシュミー・ヘー、「ふたつの目のヘー」)などが足されて、文字の数は約39〜40になる。数字だけは左から右へ書く。
書体はナスタアリーク体。14〜15世紀のイランで生まれた書道の書体で、単語が右上から左下へ、斜めに流れ落ちるように連なる。この形は機械で組むのが難しく、新聞は長く書家が一枚ずつ手で書いていた。1981年に約2万の合字を持つデジタル書体「ヌーリー・ナスタアリーク」ができ、日刊紙ジャングがコンピューター組版に切りかえていった。
文法のクセ
語順は日本語と同じ主語・目的語・動詞。「〜に」「〜で」にあたる語を名詞のうしろに置くので、日本語話者には組み立てやすい。名詞には男性と女性があり、動詞や形容詞がそれに合わせて形を変える。
ウルドゥー語らしいのは、ペルシア語から借りた「エ(-e)」でつなぐ形だ。「〜の」を名詞のあいだに挟むのではなく、前の名詞に「エ」をつけて後ろの名詞につなぐ。言語名の由来になった「ザバーネ・ウルドゥーエ・ムアッラー(気高い陣営のことば)」も、この形でできている。詩や改まった文章で、いまもよく使われる。
この言語でしか言えない言葉
歴史をひとことで
根っこはヒンディー語と同じ、デリー周辺の話しことばだ。ペルシア語が宮廷のことばだったムガル帝国の時代に、ペルシア語・アラビア語の語彙をたっぷり吸いこんで、詩のことばとして磨かれた。昔はヒンダヴィーやレーフタとも呼ばれていて、「ウルドゥー」という名前が使われはじめるのは1780年ごろ。もとはテュルク語で「軍営」を意味する ordu から来ている。
詩の形式ガザルは、2行で1句の対句を重ね、最後の句に詩人の雅号を詠みこむ。デリーに暮らしたミルザ・ガーリブ(1797〜1869年)はその代表で、くだけた話しことばで書いた手紙は、近代ウルドゥー語散文の手本にもなった。
いま、この言語は
パキスタンでは1973年の憲法で国語と定められ、母語話者が少なくても国じゅうで通じる共通語になっている。危機とは無縁の大言語だ。
デジタルでは長く、ナスタアリーク体を画面に出すことが壁だった。いまはWindows 8以降に入っている書体や、Googleが無料で公開している Noto Nastaliq などで、画面でもあの斜めに流れる文字が読めるようになった。
ことばカード
もし学ぶなら
おすすめの入り口
文法と日常語はヒンディー語とほぼ共通なので、話す練習はどちらから入っても役に立つ。ウルドゥー語として読みたいなら、まず文字だ。同じ字が語頭・語中・語尾で形を変えるので、自分の名前を書くところから始めるといい。
耳から入るなら、ガザルの歌がいちばんの近道になる。各句の終わりに同じ言葉が繰り返し戻ってくるので、意味がわからなくても、どこで句が終わるかは聞き取れる。
話し手の数は推計で、資料によって幅があります。音声は端末の合成音声で、話者による録音ではありません。