あらすじ
母に会いたいと泣いてばかりのスサノオは、姉アマテラスに別れを告げに高天原へ上る。ところが、そこで田の畔を壊し、神殿に糞をまき、機屋に皮を剥いだ馬を投げ込む。驚いた織女が死に、アマテラスは怒って天の岩屋に籠もる。
高天原も葦原中国も真っ暗になり、あらゆる災いが起きた。八百万の神は天の安河原に集まり、知恵の神オモイカネが策を練る。長鳴鳥を鳴かせ、鏡と勾玉を榊にかけ、アメノウズメが桶を踏み鳴らして胸をはだけて踊る。神々がどっと笑う。
外が騒がしいのを不審に思ったアマテラスが戸を少し開け、「なぜ笑っているのか」と問う。「あなたより貴い神がいるので」と鏡を差し出す。鏡に映る自分の姿に見とれたところを、力の神タヂカラオが引き出し、しめ縄を張って戻れなくする。
読みどころ
太陽を取り戻すのが、力でも祈りでもなく笑いだという点。この場面は宮中の鎮魂祭や、各地の神楽の起源として語られてきた。物語が儀礼を説明し、儀礼が物語を毎年上演する。
もうひとつは鏡。アマテラスは自分の姿を見て戸を開ける。太陽が太陽を見る。この鏡が三種の神器の八咫鏡で、伊勢神宮のご神体とされる。
高天原動みて八百万の神共に咲ひき古事記 上巻
世界の似た物語
ギリシアのデメテルは、娘を失って引きこもり、大地から実りが消える。老女バウボの卑猥な踊りで女神が笑い、世界が戻る。「籠もる女神を、踊りと笑いで引き出す」構造がぴたりと重なる。北米のワタリガラスは、箱に隠された太陽を盗み出して世界に光を放つ。北欧のラグナロクでは狼が太陽を呑み込む。詳しくは「太陽が隠れる日」で。
あらすじは「古事記 上巻」の主要な版にもとづく要約です。伝承には多くの異伝があり、ここに載せた筋はそのひとつです。